副題に<民俗学者 竹之内晴彦の事件簿>とあるように、民俗学者の<竹之内>が、下宿先の料理旅館の息子であり捜査一課の刑事の<小比類巻ゆたか>との兼ね合いで、京都を舞台として物語は進んでいきます。
上賀茂神社の境内で、素肌に豪華な振袖をまとった若い女性の絞殺死体が発見され、手には二つに折れた破魔矢を持たされていました。
その後下賀茂神社、蚕ノ社の三柱鳥居と同じように素肌に振袖だけの死体が発見されていきます。
着せられていた振袖は、いずれも着物の染色家<八剣正親>の作品で、殺された女性たちはいずれも彼の愛人という立場でした。
上賀茂神社を中心とした歴史的記述や、人身交婚伝説に託された民俗学的な話題を縦糸に、染色家という芸術の世界を横糸に、猟奇的殺人事件が解明されていきます。
前作の 『疑心:隠蔽捜査3』 に続くシリーズ4冊目です。
このシリーズは、東京大学法学部卒のキャリア<竜崎伸也>が主人公です。
エリートコースを歩んでいましたが、息子の不祥事の影響で、大森署の所長に降格人事を受けながら、持ち前の原理原則を貫きながら、警察官としての職務に励んでいます。
今回は「3.5」のナンバーリングですが、主人公の<竜崎>の幼馴染である同期のキャリア<伊丹俊太郎>を主人公に据え、福島県警の本部長から警視庁の部長に就いた流れが、8編の短篇としてまとめられています。
『疑心』で登場した<畠山美奈子>の裏話がタイトル『試練』の短篇に登場、また大森署のはみだし刑事<戸高>の話題も登場したりと、シリーズを読む読者をニタリとさせてくれる内容になっています。
日本の警察機構の中は上意下達の世界ですから、個性あるはみ出し刑事は厄介者扱いになります。
そんな厄介者でありながら、実力がありそれぞれ個性のある4人の刑事が、非公式に捜査第一課別室極秘捜査班を任されます。
主任として<剣持>、メンバーには詐欺や汚職の取り締まりをしてきた<雨宮梨乃>、スリ担当だった<徳丸>、暴力団に精通した<城戸>達です。
代々木公園で女性の全裸死体が発見されますが、11年前に発生した強姦事件と手口が同じで、被害者に残された体液も一致するのですが、容疑者には完全なアリバイがあります。
捜査一課の事件捜査とは別行動を取り、組織の命令系統に縛られない極秘捜査班が、刑事の矜持を保ちながら真犯人に迫っていきます。
警視庁の中にこのような部所はありえないとおもいますが、それぞれ個性ある4人の動き方に共感を持ちながら、読み終えました。
なんとも奇妙なタイトルに目が止まりました。
『ネトゲ廃人』とは、「パソコンのオンラインゲーム=ネットゲーム」の中毒者を指す言葉で用いられています。
現実の学業や会社勤めを捨て、部屋に引きこもり現実の社会から逃避してしまった人たちとのインタビューを通じて、ネット社会の一面に踏み込んだ一冊でした。
いまや小学生も参加している仮想社会のネットゲームですが、時間とお金の消費に対する感覚が麻痺している反面、人間関係が構築できない人にとってはありがた逃げ場になっている現実に、改めて驚かされます。
睡眠を取らずにネットゲームに夢中になり、死亡する若者も出ている韓国の現状と取り組みも紹介されており、考えさせられる一冊でした。
<隠蔽捜査2>の 『果断』 に続く、シリーズ3作目です。
主人公<竜先伸也>は47歳、1作目で息子の不祥事でキャリアとしての道を閉ざされながらも警察を辞めることなく、大森署の署長として左遷された立場で陣頭指揮をとります。
2作目ではたてこもり犯人を、自ら現場に出向き、事件を解決しています。
今回は、アメリカ大統領が訪日するということで、羽田空港を含む第二方面警備本部の本部長として抜擢されますが、階級を飛び越えた本部長の地位は、他の官僚たちの策略だと感じながらも、自分の仕事をこなしていく姿が描かれています。
本部長の秘書として本庁から派遣されてきた<畠山美奈子>に対して、<竜崎>は恋心を抱いてしまい、本部長の責務にありながら、悶々とした気持ちを整理することができません。
警察小説だから事件だけの内容だけではなく、男として家庭を持つ夫として、警察官もごく普通の人間であることを、真正面から切り込んでいる一冊でした。
2007年に刊行された『許さざる者』を、文庫化に当たり改題したのが本書です。
著者お得意の山岳小説と、刑事モノとしてのミステリーを合わせた骨太の作品でした。
アウトドアー関連のルポライター<深沢>の所に、6年前に自殺した兄の件で、自殺する三日前に結婚した<朱美>の依頼で弁護士<楠田>が現れ、他殺かもしれないと打ち明けられます。
弟として、兄が自殺するような性格ではないと考えていただけに、調べてゆくと不仲の父を受取人として多額の保険金が支払われた事実をつかみます。
<楠田>と協力しながら、6年前の真相を突き止めるべく<深座>は突き進んでいきますが、劇的な結末まで息もつかさぬ流れで楽しませてくれる一冊でした。
文庫本の帯に「第14回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作」の文字を見て、手に取りましたら、著者は4歳から神戸市西区に住んでいる地元の作家だと分かりました。
ゴッホの『医師ガーシュの肖像』という小さな作品を巡る、美術ミステリーとしてまた、小気味良いコンゲーム小説として120%楽しめました。
多分こうなるだろうなぁ~の予測通り話しは進んでいくのですが、それがまた覆されるというスリリングな展開が繰り広げられます。
読み始めには、タイトルの『大絵画展』とどう結び付くのかと疑問に感じる導入部でしたが、この部分までが計算された布石で、読後「なるほど」とおもわせてくれます。
美術業界の現状も良く表現されており、一枚の絵に掛ける美術収集家の執念を逆手に取った構成は、十分に新人賞受賞の価値がある一冊です。
東京都知事が大阪を嘲笑する発言をしたことにより、2027年に日本は東西に分裂して『東西の壁』が造られ、鎖国状態が続いています。
主人公<博文>は、広島県出身ですが東京に残る羽目になり、大学時代の恋人<恵美>は、たまたま広島に帰省していたときで、離れ離れの状態が5年間続いていました。
西日本が「奥島」を攻め入ったことにより、<博文>は東日本の兵士として駆り出されるのですが、戦場で西日本の軍服に着替え、なんとか西日本側に潜入を果たします。
西日本は、華族・平民・奴隷の身分差別がある独裁国として替わりはて、総統の側近をしている<博文>の父の力で奴隷工場の監視役を与えられるのですが、そこで偶然奴隷として働く<恵美>と再会を果たしますが・・・。
近未来的な日本を舞台とした、ラストに明るさが見えてくる、純情な恋物語として読めました。
主人公の<神谷>警部補は、警視庁捜査一課の刑事でしたが、捜査中の被疑者に対する暴力行為で伊豆大島署に左遷となり、これを契機に離婚した42歳の男です。
ある日二年半ぶりに本庁刑事部長から神奈川県警の不祥事を操作する特殊班に引き立てられ、連続婦女暴行殺人事件の再捜査を始めますが、神奈川県警や警視庁の妨害工作に合いながらも、事件の真犯人を追い求めていきます。
特殊班に呼ばれたのは、本庁の理事官や福岡・大阪の刑事とともに、北海道警からは過去に自らが暴行を受けた経験を持つ<保井凛>が派遣されており、<神谷>とはそりが合わないでだしでしたが、お互いの過去をさらけ出すことにより、チームの一員以上の感情の触れ合いが生まれていきます。
左遷されたことにより忘れかけていた刑事の本分を燃え上がらせながら、バラバラに寄せ集められたチームメンバーと共に突き進んでいく<神谷>の姿に、最後まで息を抜くことなく読み終えることができました。
著者の作品は代表作<新宿鮫シリーズ>を筆頭に、同じ主人公のシリーズ化が多いようです。
この作品も、『走らなあかん、夜明けまで』(1993年刊行)・『涙はふくな、凍るまで』(1997年刊行)に続く、<坂田勇吉シリーズ>の3作品目(2012年刊行)です。
主人公<坂田>は、前作までに北海道ではロシアマフイアと、大阪では地元暴力団とのトラブルに遭遇してきた「ササヤ食品」の営業マンです。
今回も、高齢者対象の新商品の煎餅の宣伝のため、老人会にボランティアとして出向くのですが、訪問先で<玉井>という詐欺師と関わりを持ったところから、殺人事件に巻き込まれてしまいます。
老人会の世話役をしている男勝りの<小川咲子>との淡い恋心もあり、いつものバイタリティーで事件の解明に関わらざるをえなくなってしまいます。
暴力団がらみの難事件にいつも巻き込まれる<坂田>の活躍が、今回も楽しめました。
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