ミュージシャン・小説家・女優・落語家(立川談志一門)と多彩に活動されている著者ですが、主はやはり漫画家だとおもいます。
<今年の読書>としましたが、この文庫本(2007年9月発行)も漫画(一部エッセイ・自宅写真有り)で、自宅建設に伴う泣き笑いを、生活に密着したノンフイクションでまとめられています。
この手の自宅建設に関しての書籍は、職業柄施主の生の声として参考になり、難しく理論武装で書かれた設計者の書籍より楽しめることが多いようです。
それにしても3度の結婚・離婚、子供4人を育てながら1億5千万円の慰謝料を男に払い、なおかつ自宅建設という借金を抱えて仕事をこなす著者のバイタリティーに、驚かされました。
インターネット、ツィッターやフェイスブックといったソシャールネットワークの時代ですが、著者はこの現象を15世紀に出版された『魔女の鉄槌』のなぞらえて、現在の情報社会のシステムに警告を与えています。
多くの情報がまったく検証されないままに、<真実>だと受け取る状況が生み出され、わたしたちの脳は思考停止状態になり、<他人によって作られた世界>が強化されていることに危惧を感じなければいけないと諭しています。
マスコミや政府発表の類の情報を正しく判断する基準として、お金を儲けたい、お金がほしい、という価値基準をなくし、発信された状況を分析するとよいと著者は述べています。
権力者(国家・マスコミ・企業)は、この情報操作をうまく操作し、何も考えない人間を作り出し洗脳している現状に、改めて情報の受信者としての意識改革が必要だと感じさせくれる一冊でした。
( 2005年6月光文社より単行本、『終の信託』と改題されて2012年6月光文社文庫 )
著者の経歴等はまったく公表されていませんが、法曹界の仕事に携わっているのは確かなようで、作品も、裁判官の世界や女子中学生の誘拐事件による冤罪事件などを扱ってきています。
本書は、文庫本化に伴いタイトルが変わっていますが、『終の信託』と『よっくんは今』の2編が収められています。
『終の信託』は、呼吸器科の専門女医が、15年間治療してきたぜんそく患者との暗黙の安楽死の行動が、殺人罪として逮捕される内容で、『よっくんは今』は、一人の女性が婚約者を刺殺する過程が綴られています。
どちらも犯罪にかかわった女性の心理や感情を通して、読み手側に犯罪行為を通して<愛>とは何かと考えさせられる内容で、また検察官や刑事などの裏面の心理も良く表現されていました。
今年は元銀行員の<池井戸潤>のドラマの主人公<半沢直樹>の「倍返しだ!」というセリフが流行りましたが、 『かばん屋の相続』 など、地域に密着した銀行員の心情がよく表れている作品だとおもいます。
今回の『激情次長』の著者も、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に大学卒業と同時に入行、1997年に起きた460億円もの資金提供の<総会屋事件>のときには、広報部次長として活躍した経歴の持ち主です。
自らの20年に渡る銀行員としての自伝的要素の短篇が9話、連作として書かれており、最後はやはり<総会屋事件>に絡んで幕を閉じています。
一人の銀行員として、銀行とはどうあるべきかという信念が随所に現れ、時には涙して上司に訴える熱血漢であり、社会に対する矜持を持ち続けた主人公<上杉健>のさわやかさが光る一冊でした。
「あべのハルカス」を代表に隣接する阿倍野地区の再開発が進んでいますが、その西側に位置しているのが<飛田新地>で、阪神甲子園球場2個分のエリアに約160軒の料亭(遊郭)が営業をしています。
著者はそのなかで料亭経営を10年経験され、今は女の子のスカウトマンとして、自らの経験を生かされています。
業界で2期4年務めた委員長の打ち上げとして、<飛田新地>の 「鯛よし百番」 で委員会を開催、会食後玄関に並ぶきれいなオネイサン達を眺め、呼び込みのおばちゃんの声を背に、メイン通りを歩いて帰宅しました。
この本には、自らの料亭で働いていた6人の女の子が登場、それぞれの人生観や業界の現状や裏話が詰まっており、ノンフィクションならではの迫力で楽しめます。
実際の街の区画や夜のメイン通りを歩いた経験があるだけに、リアル感を感じる一冊でした。
副タイトルに<もののけ侍伝々>とあり、シリーズの第一作目で、続編が出ています。
主人公は<京風寺平太郎>で、広島藩浅野松平安芸守の下屋敷に住む下級武士ですが、生まれ故郷の備後三次において、妖怪退治をした実績があります。
彼には100年以上京風寺家に棲む妖怪大将<樋熊長政>がおり、どのような妖怪があらわれてもおびえることはありません。
<京風寺>の部屋には、「おばば」や「おきん」とかの妖怪が出入りしていますが、妖怪退治の実績を受けて突然幕府から怪事件の解決を任されてしまいます。
<もののけ>といえば、 「もののけ本所深川事件帖」 や 畠中恵の <しゃばけシリーズ> を思い出しますが、電灯のない江戸時代は本当に漆黒の闇で、当時の人たちが妖怪を信じていたとしても不思議ではなく、妖怪の科学的な論証はさておき気楽に読める一冊でした。
タイトルに興味を持ち手にした文庫本ですが、発刊は2011年8月でした。
著者の経歴を見ますと、ブログルの<PSP>があるシアトル出身でしたので、何かの縁かなと読みました。
主人公の<ハント>は、カナダ国境の近くに妻の<ノーラ>と住み、競争馬の飼育をしながら、麻薬密売の運び屋をしています。
ある日、深夜に飛行機から落とされた荷を回収する際、保安官補の<ドレイク>に発見され、回収は失敗に終わり逃亡生活が始まります。
保安官だった<ドレイク>の父親も、麻薬取引で刑務所で刑期を務めている背景があり、麻薬が手に入らない組織は殺し屋<グレディー>を麻薬の回収に当たらせ、<ハント>を殺しにかかるのですが・・・。
<グレディー>の異常なまでの殺戮場面が描かれている反面、前科者の<ハント>の落ち着いた行動、保安官補<ドレイク>の父親に対する家族愛とが交差する構成で、ハードな内容ですが、終わり方に一抹の希望が残り楽しめました。
警察署を舞台に殺人事件を解決する小説は数知れませんが、なかなか軽快なタッチの構成で、592ページの最後まで楽しく読み切れました。
主人公は、幼児レイプ犯人を溺れさそうとした経歴があり、問題の多い刑事の吹き溜まりとなっているグリニッジ署に左遷させられた女性刑事<パツィー>です。
署に赴任するなり、棺桶の中の死体が入れ替わる事件が起こり、捜査中に関連なるとおもわれる殺人事件が次々と発生していきます。
コンビを組む<レイデン>との会話や行動が洒落ていて、同じイギリスを舞台にした<デボラ・クロンビー>の 『警視シリーズ』 の主人公<ダンカン・キンケイド>とは趣きが全然違います。
数々の殺人事件が、13年前に起こった2300万ポンドの強奪事件と関連がありそうだと読者を引き付けながら、最後のどんでん返しと、私生活では問題がある<パツィー>や<レイデン>の人情味あふれる行動とが相まって、続編を期待したいエンターティナメントでした。
私立の男子校「珠城学院高校」を舞台にした、痛快な学園小説です。
主人公の<桐野一貫>は大学を卒業すると同時に、母校である「珠城学院高校」に体育教師として赴任してきます。
新任早々、用務員の荒井こと<あらじい>から、彼が夕方から営業している持つ焼き「あらい」へ顔出すように言われます。
そこには、かって自分が教えてもらった先輩教師が5人おり、「薫風会」なるメンバーでした。
「薫風会」は学園内に起こるトラブルを外部に漏れることなく穏便に処理をする目的を持ち、<教師と生徒の親が不倫>、<近隣高校の学生同士の決闘>、<教師の居眠り事件>等の話しが4編収められています。
<一貫>の隠された高校時代の出来事を背景に、学院の教師の中でははみ出し者の「薫風会」のユーモアあふれる短篇が楽しめました。
警視庁の刑事だった<麻生>は、デスクワークとなる昇進の道を自ら辞して、私立探偵として独立しています。
私立探偵としてはステレオタイプ化された感がありますが、組織からのはみ出す性格と離婚歴は、どうやら定番の条件ですがが、重ねて「ゲイ」という要素が加わっています。
本書は刑事時代の出来事を下地に、恋人(?)<山内練>との関係を平行に描き込みながら、連作として4件の事件が納められています。
4件の事件は、個人的な思い入れのある依頼が発端として始まりますが、どれも結末が見えない中、じっくりと読ませる内容でした。
随所に女性作家ならではの視点だなとおもわせる描写もあり、しっかりとした構成力は、さすが著者ならではと読み終えました。
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