前回に読んだ 『町医 北村宗哲』 としての2作目の短篇集で、シリーズとして現在まで4巻が出版されていますが、文庫本としては3冊が刊行されています。
元渡世人の<宗哲>は、江戸・芝神明前に「北村堂」という医院を構え、評判の町医となっていますが、本人が渡世家業から足を洗ったと考えているにも関わらず、患者だけではなく厄介事が舞い込んできてしまいます。
登場人物は別として、作品に書かれている内容は綿密な時代考証をされていますので、物語の内容と合わせて興味深く読めるシリーズです。
「勝海舟」の曾祖父は、越後から江戸へやってきた目の不自由な人で、賭博場で金貸しで財を築いたとか、前作では<賀川玄悦>が、世界で初めて胎児は頭を逆さまにして背面しているのを発見した医者だとか、面白い話題に事欠きません。
前作に比べて各短篇の終わり方が急な感じがしましたが、どの短篇も連作としてつながる内容で、面白く読み終えました。
<佐藤雅美>は、綿密な時代考証による江戸時代の風俗や世相を調べ、社会制度の正確さ等、安心して読める作家の一人です。
特に町奉行制度や渡世人の裏社会、医学・学問の分野に詳しく、これらの題材を織り交ぜた作品群は、雑学を超えた楽しみで読めることができます。
今回の『町医 北村宗哲』も、渡世人崩れの医者<宗哲>を主人公に据え、岡っ引きの<和吉>を脇役に、8話の短篇が収められています。
<宗哲>は、妾の子供として生まれましたが母親が11歳の時に他界、父の元に引き取られますが、本妻や兄弟からのいじめに遭い、15歳の時に医学館に学び寮に入りますが、父親も亡くなり仕送りが打ち切られてしまいます。
医学館にての勉強を続けられなくなり、途方に暮れていたところに幼馴染みの<惣吉>と出会い、やくざの通称<青龍松>の世話になった経歴を持っています。
短篇ひとつずつは独立した話しですが、昔の渡世家業を引きづりながら、町医としての立場で人情話が語られています。
京都の二条通りの片隅にひっそりと営業している純喫茶「タレーラン」を舞台として繰り広げられるミステリータッチの物語です。
「タレーラン」の珈琲店をあずかるのは<切間実星(みほし)>で、先代の経営者から引き継いだ、まだ23歳の若きバリスタです。
偶然に入ったこの店で学生の<アオヤマ>は、自分の求めていた珈琲の味に魅かれて通い詰めることになります。
<実星>には隠された過去があり、また<アオヤマ>にも表に出せない仕事がらみの事情を抱えての「タレーラン」通いでした。
短篇七篇が引き継ぐ形で物語が構成され、二転三転する結末に読者は翻弄されてしまいますが、京都ならではの地域性を生かし、珈琲好きにはたまらない話題が散りばめられた一冊でした。
10年前、清遠女子高の2年生30人が、遠足に使用したバスもろとも姿を消す事件が起こり、刑事の<奈良橋>は姪を亡くし、その後母親である姉も亡くなります。
仕事上、推理作家の<小田原>が放火殺人事件で亡くなり、執筆中の原稿担当者やその恋人までもが殺される事件が起こり、<小田原>が一時住まわせていた<大山茜>という女性が捜査線上に浮かび上がり、彼女の身辺を調べ始めます。
遠足で使用したバスが、埋められていた地中から発見されますが、ひとり分の遺体が見つかりません。
読者は生き延びた17歳の女子高生が<大西茜>だと分かり、同じような年齢の女性を殺しながら、その身分を騙りながら自分の夢に向かって生き延びてゆく足取りを<奈良林>や<小田原>に雇われた探偵の動きで知らされていくのですが・・・。
前回読んだ著者の 『ドS刑事』 はユーモアがあり楽しめましたが、今回は現実離れしたともいえるべき内容で、「だからどうなの」という感が残りますが、ハラハラしながら読み終えました。
ショートショートの名人である著者の短篇集で、12の話がまとめられています最新作品集です。
お得意のミステリーやブラックユーモアではなく、大人のメルヘンが阿刀田流に展開していました。
どの短篇にも気共通するのは、幼い子供の頃や物心付いた思春期、社会人になりたての頃の思い出や記憶を引き金として、自分の人生を顧みるという、歳を重ねた大人としての心境が、様々な主人公を通して語られています。
「あのときは」といった心境は、誰にもある分岐点として心の隅に刻まれているとおもいますが、どこにでもある日常生活の一場面を切り取っているだけに、人生の重みを感じさせる短篇集でした。
前回読んだ著者の 『嫉妬事件』 はあまりよくありませんでしたが、今回は論理的な推理小説の短篇集で楽しめました。
『六つの玉』 ・ 『五つのプレゼント』 ・ 『四枚のカード』 ・ 『三通の手紙』 ・ 『二枚舌の掛軸』 ・ 『一巻の終わり』と、タイトルの数字に意味を持たした殺人事件を解決していく内容です。
探偵役は<林茶父(さぶ)>で、身長160センチ、頭にソフト帽をかぶり鼻下にはチョビ髭を生やした小太りの体形で、まるでチャップリン(茶父林)を思わせる人物です。
遊び心満載で、特に最後の『一巻の終わり』の終わり方は、秀逸で「なるほど」と感心しました。
経済月刊誌『ミレニアム』の発行責任者<ミカエル>は、友人から聞いた情報を基に大物実業家<ハンス>の違法行為を記事にしますが、相手側の偽情報で名誉棄損で禁固刑を言い渡されてしまいす。
『ミレアム』を辞したあと、大企業の前会長<ヘンリック>から、37年前に起こった姪の<ハリエット>の失踪事件を調査してほしいとの依頼があり、<ハンス>に打撃を与える情報と交換と言う条件に引かれ、殺人事件かとおもえる難事件に乗り出していきます。
副題に「ドラゴン・タトゥーの女」とありますが、<ミカエル>の事件を手伝う助手として、背中にドラゴンの入れ墨を入れた女性調査官<リスベット>が、個性的ないい脇役として登場してきます。
<ヘンリック>一族の過去にまつわる家族の複雑な人間関係流を中心に、複雑な謎が絡み合い、ミステリーの醍醐味が味わえる出来ばえでした。
『黒い家』では人間の欲望や狂気を描いたホラー小説、『青の炎』では青春ミステリー、『硝子のハンマー』では探偵<榎本>を主人公にと、幅広いジャンルで執筆している著者です。
最近作のこの『ダークゾーン』は、将棋やバーチャルゲームを好む人には受ける内容だとおもいますが、正直ミステリーとして読み終えるには疲れました。
将棋のプロとなるべく奨励会で頑張っている<塚田>は、突然「赤軍」の王として未知なる異空間で蒼然たる殺戮の七番勝負の世界に紛れ込みます。
相手の「青軍」は、奨励会のライバル<奥本>です。
かっての恋人<井口理沙>との関係を、バーチャルな壮絶な戦いの中で、過去の出来事として交互に語られ、最後にたどり着く世界は・・・・。
以前にネットゲームにのめり込む若者を主題にした 『ネトゲ廃人』 を紹介しましたが、まさにバーチャルのゲーム感覚がお好きな方向きの一冊です。
私立探偵<スペンサー>を主人公とするシリーズで、全39作中の27作目にあたります。
大好きな作家の一人ですが、2010年1月に亡くなっており、あわてなくても順次読んでいけるなと構えています。
南部ジョージア州の馬主<ウォルター>が、最近自分の持ち馬が銃撃されるという事件が続き、名馬「ハガーマガー」も狙われているということで、犯人を探しだす仕事の依頼が来ます。
<スペンサー>依頼する以前から、厩舎の警備にガードマンが雇われていますが、<ウォルター>の三人娘を中心とする家族関係に不穏な匂いをかぎ取りながら、地元の保安官代理の<ベッカー>や酒場の用心棒<サップ>の協力を得て、真相に近付いていきます。
いつもながら、会話を中心とした軽快な文章は面白く楽しめましたが、相棒の<ホーク>が登場しないのが少し残念でした。
『週刊文春』にて、2009年1月から12月に掲載されたエッセイがまとめて一冊になっています。
時系列的には4年前の出来事ですが、「建築とイケメン」というタイトルが目にとまり、読んでみる気になりました。(シカゴ訪問の際に感じた、街並みの印象が少し書かれていただけでした)
「ああ~、そういえばこんな出来事もあったよなぁ~」という気楽な気分で、読み終えました。
週刊エッセイということで、一つ一つの文章も短く、洒脱な文体は肩を張ることなく楽しめました。
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