一般人(カタギ)としては馴染みのない世界ですが、高倉健や鶴田浩二などが主演した任侠映画やヤクザ映画などの影響で、暴力団を見る目に国民的感情として甘さがあるのは拒めませんが、やはり撲滅させるべき団体には違いありません。
著者は暴力団などを取り締まる窓口となる第四課などが無くなると、警察も困るとの皮肉を込めていますし、また「組織犯罪処罰法」は、暴力団の存在を認めたうえでの法律であると訝っています。
日本の暴力団だけでなく、アメリカの「マフィア」、香港の「三合会」、台湾や中国の「流氓(リュウマン)」等にも触れ、現在の状況を分析されています。
また警察は対象とはしてはいませんが、「半グレ」の団体として、暴走族上がりの関東連合OBなどの挙動にも一目置かれています。
この構造不況と諸法律等で暴力団は将来性がないと著者はみなしていますが、表社会から消え失せてしまうのかは、まだまだ確証が持てません。
2002年から創設されたノベライス・コンテストの「このミステリーがすごい!」大賞も、昨年度まで11回を数えていますが、『トギオ』は2009年第8回の大賞受賞作です。
ミステリーというよりは、近未来のSF小説といった趣があり、謎解きを期待する人には馴染めない物語ですが、なんとも不思議な世界を味わえた一冊でした。
口減らしのために捨てられた<白>を家に連れ帰る主人公は、家族ともども村八分に遭い、学校でもいじめに遭います。
<白>の姉は、酌婦として売られていく状況は、100年前の日本を思い起こさせますが、「オリガミ」などという電子マネーや情報端末機としての先進的な道具が物語の鍵として登場したりして、読み手は年代設定を訝りながら物語を読み進まなければいけません。
「トギオ」は大都会「東暁(とうぎょう)」を表し、まさに映画『ブレードランナー』を想わせる貧富の格差の激しい象徴として比ゆ的に登場させ、唐突な結末に終わるのですが、印象に残る文章力で最後まで読まずにはおられませんでした。
荒削りなところあり、説明不足な印象もぬぐえませんが、作者の次作を期待してしまいます。
石田衣良の小説としては、 『夜の桃』 ・ 『逝年』 を読んでいますが、正直なところ好きな作品傾向ではありません。
ただ、現在の若者の恋愛感情や現代社会の分析には、いい参考書になるなとみています。
今回は、著者のエッセイ集を読んでみました。
<R25>という、首都圏を中心にリクルートが発行するフリーペーパーに連載されていたものが、一冊にまとめられています。
R=「Restrict:制限」ということからも<25禁>で、そこそこ実社会で活躍し始めた人たちへの応援メッセージ的なエッセイ集です。
今では日常的に使用されている「格差社会」・「ネットカフェ難民」・「いじめ」等のキーワードを枕に、人生の先輩として若者に元気を与えるメッセージが込められた一冊です。
反イラン派のレヴィ上院議員が、一人のテロリストに襲撃され、護衛していたSP共々殺害されてしまいます。
調査の結果、テロリストとして<ジェイソン・マーチ>が浮かび上がりますが、もとアメリカ陸軍の訓練中に仲間を射殺して逃亡していた男です。
<マーチ>の上司であった<ライアン>は、この事件を機にCIA組織から引退して、大学の教授としてのんびりした生活を送っていましたが、また元の古巣に戻り、<マーチ>を追うことになります。
大学院生の<ケイティ>と恋愛関係にありながら、<ライアン>はアルカイダを中心として進められている対アメリカへのテロ計画を進める<マーチ>捜索に、専念してゆきます。
緻密な計画を進める<マーチ>と、組織力をもって阻止しようとするCIA等の宿命の死闘が繰り広げられていきます。
540ページを超える長編ですが、もう少し展開が早くてもいいかなと感じましたが、若干24歳のデビュー作だということを考えれば、これから楽しみな大型新人の登場です。
濱嘉之の作品は、警視庁情報室の<黒田純一>を主人公にした 『トリックスター』 以来です。
今回は、警視庁公安部公安総務課の<青山望>を主人公に据え、警察学校同期の三人が、それぞれの担当の部で彼に協力する体制が、警察組織として見事に描かれています。
福岡市内で行われた政治資金パーティーの席上で、財務大臣が暴漢にナイフで刺殺される事件が起こりますが、犯人は完全黙秘を貫き、身元があきらかでないまま起訴されます。
特命の極秘捜査を進めていくうちに、以前にも良く似た事件の犯人として『蒲田一号』と氏名不詳のまま起訴され、出所したあとに行方不明の人物に<青山>は興味を抱きます。
捜査を進めるうちに、政治家と暴力団、語学学校を隠れ蓑にした売春組織等の複雑な関係が浮かび上がり、公安部を中心に各組織が捜査を進めてゆきます。
もと警視庁公安部に在籍していた著者ならではの、警察組織の彩も細かく描かれていますので、圧倒的なリアリティーで読者を引きずり込んでくれます。
他の部署の同期の仲間3人と絡み合い、また刑事モノとして楽しめるシリーズが出てきました。
前回読んだ著者の 『かばん屋の相続』 の印象が強くあり、今回も銀行が関連している内容のようで、期待感を持ちながら読み始めました。
東京中央銀行の系列子会社である東京セントラル証券に、IT企業の電脳雑伎集団の社長から、ライバルの会社スパイラルを買収したいという相談が起こりますが、親会社の東京中央銀行にアドバイザー契約を横取りされてしまいます。
セントラル証券に出向している<半沢直樹>は部下の<森山雅弘>とともに、スパイラル側に回り、東京銀行の賠償を阻止しようと反撃に出ますが、本社と子会社の縦組織の中で誹謗中傷を受けながら、毅然として<半沢>は、自分の信念にもとづき仕事をこなしてゆきます。
<正しいことを正しいといえること。世の中の常識と組織の常識を一致させること。ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価される。そんああたりまえのことさえ、いまの組織はできていない>と<半沢>の台詞にあり、元銀行員の著者の経験が生かされた一冊です。
出世欲が絡む人間関係も現実的で、面白い駆け引きにワクワクしながら読み終えました。
前回の 『契約』(光文社文庫) のときにも書きましたが、明野照葉さんの小説に共通するのは、<「女」の執念・怨念・すさまじさ>です。
今回の『その妻』は、『契約』以降4冊目に出版された最新作(文庫書き下ろし)です。
女性の心理描写を下地に、明野ワールドとでもいいましょうか、独特の盛り上がり方で、今回も「ドクッ」という味わいで楽しめました。
高校生の同級生として付き合い、結婚して13年経つ36歳の<聡乃>は、運送会社に勤めながら、職種を替える甲斐性のないく融也>と子供も作らずに暮らしています。
突然<融也>から、以前勤めていたデザイン事務所のオーナー<モナミ>46歳が悪性リンパ種の病気で余命は一年だと聞かされ、介護のために家を出て面倒を見させてくれと言われます。
高校のときから、お互いパートナーとして信頼関係があると信じ、仕方なしに認める<聡乃>ですが、病気ではなくどうやら<融也>の子を妊娠していると「女の感」で突きとめてゆきます。
この世に子供はいらないと言い続けてきた<融也>ですので、<聡乃>自身で後始末をつけようとしますが、思わぬ結末を迎えることになります。
なぜか怖いもの見たさに読みたくさせる明野ワールド、この一冊も期待に答えてくれました。
緻密な筋立てを組み、縦糸・横糸の伏線を張りながらどんでん返しという構成の推理小説は大好きな部類で、著者の素晴らしい力量に感心します。
また、膨大な資料を史実として検証した上で、その隙間をつなぎ合わせ想像力を駆使したであろう時代小説も、これまた大好きな分野です。
この『写楽残像』はまさに後者の部類で、久々に読みながら唸っておりました。
<蔦屋重三郎>は、山東京伝や朋誠堂喜三ニらの黄表紙・洒落本の出版をはじめ、喜多川歌麿や東洲斎写楽などの浮世絵を世に出した版元で、前半は主人公である<銀冶>の祖父<蔦屋重三郎>の活躍が丹念に描かれています。
<蔦屋>と親交のあった太田南畝、十返舎一九、曲亭馬琴などの周辺人物が生き生きと描かれた有名人が登場する文人小説であり、また謎の絵師写楽の謎に迫る歴史小説でもあり、また<銀冶>の仲間の<弥吉>の無罪を明かすミステリーな要素もありと、読み応えのある一冊でした。
<銀冶>は<蔦屋>を弟に譲り、自らは「蝶」の意匠を扱う「胡蝶屋」を開店するところまでで終わりますが、この先の展開が楽しみでなりません。
戦前の陸軍内部に、<結城中佐>をトップとする、半地方人(軍人以外)で結成された「D機関」なる秘密諜報組織を中心に据えた、スパイ小説の短篇集です。
従来の秘密組織と違い、「死ぬな、殺すな」の主義であるがゆえに、軍上層部から反発と嫌悪感を持たれていますが、<結城中佐>の見事なまでの活躍の前には、歯が立ちません。
<結城中佐>が組織する諜報部員の思わぬ行動と活躍が、スリリングな展開で繰り広げられます。
読書の楽しみは、文面の中に思わぬ発見や驚きがあることですが、バードウォチングを主軸に書かれた『ブラックバード』では、二重スパイとしてのコードネームが<ファルコン>であるのには、苦笑せざるを得ませんでした。
諜報集団として異能の精鋭たちの知的な戦い、これはシリーズ2作目ですが、文庫本として3作目が出ています。究極のスパイ・ミステリー、楽しめる「D機関」シリーズです。
<もののけ本所深川事件帖>とありますように、シリーズ4冊目に当たります。
本所深川にある唐人神社には、<小糸>という娘が祭られていますが、大川が大雨で溢れそうなときに、<小糸>が『十人の仔狐様』という十番ある数え唄を歌うと雨が止むという言い伝えが残っていました。
この数え唄を歌う十人組の「本所深川いろは娘」が江戸の町の人気を集めていましたが、そのうちの一人<小桃>が行方不明になり、大川で死体となって発見されます。
欠員の出来た穴を埋めようと、主人公<周吉>が手代をしています古道具屋の娘<お琴>が、「いろは娘」の元締め<市村>に担ぎ出され、付き人として手代の<周吉>が仕えるなか、次々と「いろは娘」が謎の死を遂げてゆきます。
<オサキ>というのは、手代<周吉>にとりついた妖狐のことですが、タイトルに出てくるほどには存在感がありませんでしたが、前作の三作を読まないといけないのかもしれません。
- ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
ログイン
- まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
新規ユーザー登録へ