家にとじこもりインターネットの格闘ゲームにのめり込む人物たちのレポートを書かれた芦﨑治氏の 『ネトゲ廃人』 の登場人物たちとは対照的に、直接対戦者と格闘ゲームをこなしてゆく著者のゲームに対する考え方が書かれています。
14歳で日本一、17歳でアメリカで行われた世界大会を制覇、2010年、29歳でアメリカ企業とゲーマーとしてプロ契約を結び、同年8月<世界でもっとも長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー>として、ギネス認定されています。
世界チャンピオンになったあとは麻雀の世界を経験、その後介護の仕事につき一時ゲームの世界から遠のいていましたが、その間の経験を土台に新たなるゲームの世界を開拓していく姿が印象的でした。
勝つことが目的ではなく、ゲームを通して自分自身が成長してゆかなければ意味がないという主張には、トップゲーマーの言葉として重みを感じました。
著者たちは共に1922(大正11)年生まれで91歳とご高齢ですが、いつも活動的に動かれているのには驚かされます。
同じ年齢ということでの対談がまとめられていますが、大きな被害をもたらした東日本大震災や、<寂聴>さんが現代語に訳された『源氏物語』の話を中心に、復興に対する日本人の底力の強さが語られています。
東日本大震災を契機に、2012年に日本国籍を取得された<D・キーン>氏ですが、日本に興味を持ったのが<アーサー・ウェイリー>の英訳本『源氏物語』であり、<松尾芭蕉>の奥の細道を実際に辿り歩いた体験から、東北の現状を痛まれているのがよくわかりました。
「お医者さんに聞くと、82歳まで元気な人はボケないのよ」と<寂聴>が言われていましたが、老いてますます盛んなお二人のご活躍を、期待せずにはおられません。
初刊行は2001年7月に講談社から発行されていますが、本書は2012年12月に4回目の刊行となり、時代の古さを感じさせない7話の短篇が収められています。
どの短篇も、人間の弱さとおせっかいが災いする内容で、日常生活には危険な罠が潜んでいることを認識させられます。
カラオケ好きの世話焼きの中年主婦、通勤電車の中で鞄を取り間違えられた中年サラリーマン、スーパーで買い物を置き引きされた主婦、ファミレスで騒ぐ女子高生、務めていた会社が突然倒産した定年間際のサラリーマン、ゴミ屋敷に住む独り者等の各短篇の主人公たちが、いとも簡単に事件に巻き込まれる怖さが味わえました。
著者の小説は、<棟居刑事>シリーズが多いのですが、本書には警視庁捜査一課の<棟居>刑事をはじめ、他の小説で出てくる新宿署の<牛尾>刑事、<青柳>刑事、成城署の<島田>刑事が登場してきますので、馴染みのあるファンにはこれまた面白い趣向で構成されています。
古書店と言えば、暗いイメージが持たれているようですが、【シラサ】さんは、ハイカラ元町通に似合うイメージで開店されました。
芸術・美術・海外文学など、一般の古書店とは異なるジャンルの品揃えでしたし、また小物の装飾品などを販売されていました。
ふとしたことで、以前からこの年末にはお店を閉められると聞いておりましたが、最後まで閉店のお知らせはなかったようです。
年末の区切りを待たず、すでにシャッターを下ろされたようで、店名の【シラサ】の文字も取り外され、この9月に閉店した 「海文堂書店」 の騒ぎとは対照的に、静かな幕引きに心が痛みます。
2011年『月と蟹』で第144回直木三十五賞を受賞している著者ですが、本書は2010年に第23回山本周五郎賞を受賞している連作短篇集です。
ミステリー作家としてデビューしていますが、トリック的な要素を含めながら、6話の短篇が収められています。
昆虫好きとしては隠喩的に出てくる<白い蝶>の存在が印象的で、総タイトルとしての『光媒の花』に結びつく結果になっています。
扱われている主題は、重く陰惨な場面も登場するのですが、子供から思春期を経て大人になってゆく場面を見事に切り込み、はかなくも悲しい主題がリンクするのですが、著者の人生は捨てたもんじゃないという応援歌として読み切りました。
主人公となる刑事<津原瑛太>は、警視庁捜査一課の<堀田次郎>が主任を務める特捜メンバーとして、<植草利巳>・<小沢駿介>・<大河内守>と共に、8ヶ月前に発生した宝飾店オーナー殺人事件の容疑者を逮捕するのですが、公判では一転<植草>に自白強要されたと証言してしまいます。
公判前突然、堀田班の5人のメンバーは本庁から所轄へと飛ばされ、理由が納得できない<小沢>は警察を辞めブンヤ記者として警察の組織に対して挑戦的に取材を始める矢先、<植草>が首つり自殺で発見されます。
冒頭は<植草>の妹<遥>を交え、海水浴で和気合いあいの場面から始まり、警察小説とは思えぬ場面が描かれていますが、<遥>に好意を寄せる<大河内>が、おもわぬ方向に事件が展開される伏線となっています。
権力の絡む警察組織を舞台に、法で裁けぬ巨悪に対して立ち向かう<津原>の行動は刑事としては失格でしょうが、 『感染遊戯』 や 『歌舞伎町セブン』 に通じるテーマで、人間的な感情として納得できる見事な構成でした。
昨年、第147回直木三十五賞を『鍵のない夢を見る』で受賞していますので、著者の名前だけは記憶にありましたが、作品を読むのは本書が初めてでした。
すでに昨年10月に東宝にて 『ツナグ』 と同じタイトルで映画化(監督:平川雄一朗)されており、第32回吉川英治文学新人賞作品です。
主人公の男子高校生<渋谷歩美>は、生者と死者を一夜限り再会させる仲介人「使者(ツナグ)」として、それぞれの登場人物の依頼に基づいて夢をかなえる役目を祖母から受け継ぎ、見習いとして4組の再会に関わります。
連作短篇集として5話が収められていますが、最終章で全体像が浮かび上がる構成で、各短篇には<祖母>の伏線が散りばめられ、最終章のまとめ方は素晴らしい内容でした。
第1編『アイドルの心得』には、自宅で突然死したアイドル<水城サヲリ>が登場しますが、明らかにタレントだった<飯島愛>がモデルです。
奇しくも本日は彼女の死亡推定日(2008年12月17日)であり、不思議な縁を感じながら読み終えました。
副題に<世田谷駐在刑事・小林健>とありますように、主人公は世田谷区の高級住宅街にある学園前駐在所に勤務しながら、山手西警察署の敏腕刑事であり全国の暴力団取締のエキスパートとして名を馳せ<鬼コバ>と呼ばれています。
相棒の刑事<加藤>を暴漢の拳銃発砲で亡くした過去を持ち、その未亡人の<陽子>と結婚、残された一人息子<修平>と三人での駐在所生活をしています。
町内の見回りの中、事件の匂いを嗅ぎつけると刑事として捜査に当たり、首尾よく犯人を検挙してゆく様は、なかなか読みごたえがありました。
タイトルにある『鬼手』は<鬼手仏心>からの拝借で、これは紀ノ川の漁師に伝わる言葉で、近年は外科医の心構えとして用いられており、「残酷なほどにメスをいれるが、それは何としても患者を救いたいという温かい純粋な心からである」ことを意味しています。
捜査過程における<小林健>の心得として、なるほどと納得できる一冊でした。
地元神戸は、広域指定暴力団の本家がある街ですので、ヤクザ関連の書籍は自然と手が出てしまいます。
本書は1995年に『恐怖な面々』(文星出版)のタイトルで発行され、その後<朝日文庫>を経て、この<新潮文庫>で三度目の出版になります。
著者は、神奈川県川崎市で「焼鳥店」を開店以来、クラブ・スナックを多数経営してきていますが、「暴力団お断り」の信念を貫き通して営業、その間のトラブルをまとめたのが本書です。
なぜ「暴力団お断り」の信念を貫きとおすのかが全編を通じてよく伝わり、「店長や従業員に何から何まで任せることはできない。彼らは客へのサービスのために働いているのであって、暴力団とのトラブルのために就職したわけではないからである」との言葉は、経営者としての信念が垣間見られます。
ヤクザに絡まれそうになったときの教科書として、面白く読み終えれました。
才能豊かな産婦人科医<岸川卓也>は、病院経営の裏側で男性の妊娠実験や妊娠中絶した胎児の臓器の培養を行い、各種臓器の移植手術を行っている医療問題の世界を描いたのが前作 『エンブリオ』 でした。
今回の『インターセックス』は、その5年後の続編となります。
市立病院に勤める<秋野翔子>は34歳、縁あって<岸川>の経営する「サンビーチ病院」に産婦人科医として転勤します。
性同一性障害者の性転換手術や、染色体異常により性器の不具合で、男とも女でもない<インターセックス(性分化疾患)>の患者たちの社会状況や医療現場の実態を克明に描きながら、5年前に起こった自分の友人を含めた不可解な死亡事故の謎を解くミステリー仕立ての構成は、読んでいて飽きない610ページでした。
この一冊だけでも十分に楽しめますが、興味ある方はぜひ『エンブリオ』(集英社文庫本では上下2冊)から読まれることをお勧めします。
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