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- 今年の読書(67)『名残の花』澤田瞳子(新潮文庫)
『星落ちて、なお』以来になります、<澤田瞳子>の『名残の花』は、2015年から2018年にかけて『小説新潮』に断続的に発表された6つの短編連作に加筆修正を行い2019年11月に刊行、2022年9月25日に文庫本が発売されています。
時代背景はご一新から5年経った明治5年。主人公は、当年とって77歳のかつて南町奉行を務め、「妖怪」と庶民から嫌われた「鳥居胖庵(耀蔵)」です。失脚し丸亀藩に23年間幽閉された末に胖庵(耀蔵)が目にしたのは変わり果てた江戸の姿でした。明治を、「東京」を恨み、孤独の裡に置き去られていた男の人生は、能の金春座の修行中の16歳の若役者「滝井豊太郎」とその88歳になるその師匠「中村平蔵」に出会ったことで動き始めます。時代の流れに翻弄されながらも懸命に生きる市井の人々を描く感動の時代小説でした。
蛮社の獄で「渡辺崋山」、「高野長英」ら蘭学者を弾圧し、能・歌舞伎など奢侈を禁じる厳しい取り締まりなどで庶民から「妖怪」と呼ばれ嫌われた因業な隠居「鳥居胖庵」が、時代の転換期だからこそ起きる人々のもつれあった心のわだかまりを解きほぐしていきます。相方に配したのは、16歳の能役者の見習いという異色の取り合わせです。
「胖庵」は「水野忠邦」によって改易され二十余年の牢獄暮らしの末、久しぶりの江戸というか東京、上野の桜を見にやってきます。酔漢に絡まれた能役者の卵「滝井豊太郎」を助けたのですが、二人とも女掏摸の被害に遭ってしまいます。こうして始まる掏摸の女との因縁を描いたのが表題作『名残の花』です。勧進能に犬の死骸が投げ込まれた騒動の真相を解く『鳥は古巣に』、士分を捨てた子と父の間を取り持つ『しゃが父に似ず』、おしどり夫婦と思われた叔母にまつわる香合の行く末の『清経の妻』など6編を収録。事件というほどではない日常のもめごとやささいな謎が多彩に続きます。
特に金春流の「能」修行の若者が準主人公的な役割だけに、「能」関係の描写が多く、著者の造詣の深さに感心して読み終えましたが、あとがきで大学時代に能楽部に所属していたとあり、さもありなんと感じた作品でした。
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