今年の読書(60)『星落ちて、なお』沢田瞳子(文藝春秋)
7月
13日
不世出の絵師、「河鍋暁斎」が亡くなります。残された娘の「とよ(暁翠)」に対し、早くから養子に出されたことを逆恨みしているのか、腹違いの兄「周三郎」は事あるごとに難癖をつけてきます。
「暁斎」の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れてしまいます。兄はもとより、弟の「記六」は根無し草のような生活にどっぷりつかり頼りなく、妹の「きく」は病弱で長くは生きられそうもないのでした。
物語は59歳で亡くなった「暁斎」の葬儀の夜から始まります。偉大な人物をなくすと、あとに残された人たちは大変です。「暁斎」が引き受けていた絵の依頼はどうするのか、多数の弟子たちの面倒はだれが見るのか、家や財産の問題も絡んできます。画業に没頭する兄「周三郎」との確執を抱えながら、「とよ」は現実に向き合い、父の画風を守ろうともがくのでした。
時代は明治から大正、急速に近代化・西洋化が進み、日本画壇も変化にさらされる。「過去の人」となった「暁斎」の画風を、「とよ」、「周三郎」はどう受け継いでゆくのか。日清・日露戦争、関東大震災を経て、日本社会はめまぐるしく変わっていく中、天才の影に翻弄されながらも、懸命に生きる女性の姿を描き出しています。