正式新内閣が発足@ベルギー
10月
10日
今回ようやく成立したのは7党連立政府。そもそもベルギーでは、国を二分するゲルマン系民族とラテン系民族が「社会のあり方」に期待するものは極端に違うとか。公用語が三つもあり、有史以来、ありとあらゆる移民や外国人がやってきてできた社会として、他人と異なることが当たり前の社会では、支持する政党がばらけるのは無理もなく、二大政党どころか、政権の中核を担える明確な多数派政党すらなく、総選挙の後には連立を組む相手と折り合いをつけるのに、毎回気の遠くなるような時間がかかるようです。2010~11年には541日を要しています。今回はさらにそれを越えていますが、新政権ができるまでは、前政府と前首相が決められていることだけを粛々とこなす決まりですので、混沌とした状態には陥りません。突然のコロナ危機では、特命を与えられた臨時首相がなんとか対応してきました。
副首相兼大臣(官公庁・公共機関担当)に任命された<ペトラ・デゥスッテル>は、ベルギーを代表する人物です。婦人科医で、ゲント大学医学部で生殖医療を牽引する教授です。2014年、緑の党から立候補してベルギー連邦議会上院議員になり、欧州評議会でベルギーを代表。2019年6月の選挙で活躍の場を欧州連合の議会に移しました。そして、自らがトランスジェンダー当事者(男性から女性)であることを隠していません。
ベルギーおよび欧州の政治の場で、行政手続きや制度の改革、公衆衛生と持続可能な開発などを担当し、医療や医療倫理における深い知見から、代理母出産における子どもの人権、ヒトにおける生殖技術使用、製薬業界の臨床研究の独立性などを任されてきました。同時に、LGBTQの人権やがん撲滅などでも広く活躍しています。客観的で科学的な取り組みは高く評価され、どのようなテーマであっても、人権と公共の健康や衛生という観点から軸足がぶれることはありませんでした。
彼女が今回、副首相兼大臣となるに至ったのは、彼女が「トランスジェンダーで卓越した政治家」だからではなく、「政治家として功績を積み上げてきた適任者」だからです。たまたまトランスジェンダーだったにすぎなく、国内メディアは誰も彼女の性的アイデンティティーを気にしていません。この<ペトラ・デゥスッテル>が「トランスジェンダーとして」欧州で初めて入閣したことはベルギーでは全く報じられることなく、話題にもならず、私も気が付くのが遅れました。