文庫本の帯に「没後30年 名著復活」(2014年8月刊行)と書かれていて、もう亡くなってそんなに日が経つのかと手にしてみました。
年代的には著者の『恍惚の人』や『複合汚染』などの社会性を持った作品は読んできていますが、この『断弦』は、著者23歳(1956年)のデビュー作品の『地唄』を第2章とする全5章からなる長編小説です。
30歳前に大検校の称号を与えられた地唄の<菊沢寿久>は、娘<邦枝>を跡継ぎにと考え指導していましたが、アメリカで育った二世の<垣内譲治>と結婚、<めあきの毛唐>との結婚を反対され疎遠のなか、アメリカ大使館勤務の<譲治>とともに渡米してしまいます。
古き古典の伝統社会に生きる父と娘の心の葛藤、弟子の女子大学生<真瀬瑠璃子>の現代的な考え方を平行に描き、また弟子同士の紛争を挟み込んで、芸に対する継承と発展を見事な筆力で描き切り、時代を感じさせない説得力のある一冊でした。
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