元警視庁組織犯罪対策二課の所属していた<河合直史>は、警察捜査の限界を感じたところ、ロシアマフィアの一味に拉致され、殺されかけたところを『ブラックチェンバー』と名乗る組織に一命を取り留めます。
『ブラックチェンバー』とは、進化する国際犯罪に対抗するために非合法的に作られた地下組織で、<河合>は日本支部のリーダーである<北平>にスカウトを受け、台湾で一年間訓練を受けさせられます。
休暇としてバンコクに出向きますが、そこで<河合>を拉致して殺せと命令を出したロシアマフィアの<コワリョフ>と遭遇、彼は部下と共にホテルのバーで射殺されてしまいます。
北海道を縄張りとする<コワリョフ>ですが、バンコクやベトナムでの行動から、何がしかの大がかりな取引の計画が考えられ、<河合>は『ブラックチェンバー』のメンバーである元北朝鮮の女性工作員であるKキム・チヒ>と行動を共に動き出していきます。
ロシアナフィアと日本のやくざ「山上連合」の思惑が交錯するなか、おもわぬ国際的陰謀を突き止める<河合>の正義感ですが、『ブラックチェンバー』の「犯罪による利益を収奪する」という強欲な考え方の対立が見事に描かれ、最後まで気の抜けない展開で楽しめました。
監視カメラで一日中出入り口は録画されており、セキュリティーの施錠も行われているT建設技術研究所の構造実験棟で4人の銃殺死体が発見されました。
いずれも至近距離から撃たれており、4人のポケットには<λ(ラムダ)には歯がない>と書かれたカードが入っており、また4人とも死後に歯が抜かれていました。
殺人が行われた夜に研究所内の別棟で実験を行っていたC大学の2年生<海月及介>と院生の<山吹早月>は、N大学院生の<西之園萌絵>の協力のもと、事件の解明に乗り出し、事件に関連して<西之園>は、自分の抜け落ちた大切な過去を取り戻します。
建築の「免震構造」をうまく取り込んだトリックで、最終段階で真相にたどり着きますが、登場人物たちの個性がよく出ており、建築設計を生業としている立場としても、楽しめました。
この17日、日本弁護士会の次期会長に宇都宮健児氏が正式決定しました。
長年対抗馬の出ない選挙で、大きな争点もなく会長が選ばれてきているようですが、今回は決選投票での当選ということもあり、印象に残りました。
弁護士と聞けば、一般的には難しい司法試験を合格してきたエリートというイメージでしょうか。
裁判所の仕事に絡んでいますので、多くの弁護士(代理人)を見てきましたが、正直「正義の味方」というイメージからは程遠い感があります。
最近は、電車の広告やラジオのCMに弁護士事務所の宣伝が行われていますが、広告解禁や報酬自由化の先駆けとして行動されているのが、この西田氏です。
ようやく貸金業法の改正で、金利のグレーゾーンが無くなりました。国民が多重債務で苦しんでいるときに、報酬の少ない仕事に見向きもしない弁護士たちを西田氏は、弁護士会の組織共々批判されています。
時期会長の宇都宮氏も、多重債務者問題で庶民派として活躍された方です。
法科大学院の問題を含め、弁護士会としての課題は多そうですが、報酬額の多寡で仕事を選ぶような組織にだけはなってほしくないと願うばかりです。
普段、自分の仕事関係に関する書籍は読まなくなりました。
建築家独特の言い回しの文脈にも飽きていますし、理想と現実との違いを、再確認するにはいいのかもしれませんが、自分のプロフェッションとしての方向性は見定めているつもりです。
久しぶりに、「建築」関係の書籍を手にいたしました。
筆者は、市井の建築事務所から東京大学土木学科(今は社会基盤学と呼ばれているようです)で、教鞭をとられています。
建築士としての経験を、土木という分野でどう生かされているのかなと、興味を持ちました。
建築は設計者の自己完結性が強く出てくるものですが、周辺環境との調和を考えない方が多いように見受けられます。
立地する敷地や歴史性といった大きな規模での発想が、大事なことだと警告されているのは的を得ていると思います。
前作 『花散らしの雨』 に続き、<みをつくし料理帖>シリーズの第三巻目が本書です。
二月の初午の日に新しいお店で営業を再開した「つる家」も、はや夏の土用の入りが近づき、暑気払いの献立に頭を悩ませています。
戯作者<清右衛門>が版元<坂村堂>を連れて「つる家」を訪れ、<坂村堂>は料理のうまさに自ら雇い入れている料理人に手ほどきをしてほしいと連れてきた男は、<澪>が奉公していた「天満一兆庵」の江戸支店を任されていた若旦那<佐兵衛>の奉公人<富三>で、彼を問い詰めた<芳>は思いがけない息子<佐兵衛>の行状を知らされ、臥せってしまいます。
上方と江戸との料理の素材の違いが面白く、また「包丁」の扱い方などの基本的な料理人の心構えとしての描写は、いつもながら見事です。
上方から運ばれた「鱧」を江戸職人は調理できず、運よく吉原遊郭の翁屋に仕出しに出向くことができた<澪>は、幼馴染の<野江(あさひ太夫)>と夢のような出会いを経験します。
文化3年3月4日(1806年4月22日)の江戸の大火で焼き出された紅白問屋の一人息子<爽太郎>は9歳は、家も親も失いみなしごになってしまいます。
生き延びるために、<爽太郎>はみなしご仲間の<徳松>や<竹次郎>達と手を組み、置き引きやかっぱらいをしていましたが、やがて鰻屋の「十三川」に奉公、一人娘の<おふく>の入り婿となり、また南町奉行の定町周り同心<朝田主馬>の計らいで、岡っ引きとなり、<徳松>と<竹次郎>は手下として働いていました。
そんなある日、同じみなしご仲間の<弥惣吉>から、女房の<おせん>が姿を消したとの相談を受け、探すことになります。
同じ時期、穀物問屋の「武蔵屋」の入り婿<栄之助>も、川越の本店から江戸の支店に出向いた際に姿を消してしまいます。
大火で焼き出されたみなしご仲間のその後の15年間の人世を軸に、男と女の悲哀を描いた情感あふれる物語でした。
仲のいい大学生仲間の<秋内静(せい)>は秘かに<羽住智佳>に思いを寄せ、<智佳>の高校時代の友人<巻坂ひろ子>と付き合っている<友江京也>と4人で、学生生活を楽しんでいましたが、ある日目の前でみんなが通う大学の微生物学の助教授<椎崎鏡子>の10歳の息子<陽介>の交通事故死を目撃してしまいます。
<静>は、事故の起こる前に<陽介>の飼い犬<オービー>が変な行動をとるのを見ており、急に車道に走り出してリードに引っ張られて<陽介>は事故にあってしまいます。
何が原因なのかが気になる<静>は、同じ大学の動物生態学者の<間宮未知夫>の自宅を訪問、犬の行動についての講義を受けるなか、母親の<鏡子>が首吊り自殺で亡くなってしまいます。
<陽介>や<鏡子>の事件を縦軸に、<静>が恋心を寄せる<智佳>との純真な恋心を横軸として、また犬の行動が大きな伏線となるミステリーが楽しめた一冊でした。
大和郡山市の「山本病院」が、患者さんに不用な手術を行い死亡させた事件がありました。どこまでが「医師の裁量」なのかを考えさせられる事件だと思います。
お医者さんとは、今の高度医療社会の中ではどのよう立場であるべきなのか、考えないといけないですね。
作者の<夏川草介>氏は、信州大学医学部を卒業後長野県の地域医療の病院に勤めておられる現役のお医者さんです。
自らの体験を基に、軽い語り口調で現在の医療問題をさりげなく指摘されている小説です。
・・・死にゆく人に可能な限りの医療行為をすべて行う、ということが何を意味するのか、人はもう少し真剣に考えなければならぬ。「全てやってくれ」と泣きながら叫ぶことが美徳などという考え方は、いい加減捨てねばならぬ。
助かる可能性があるならば、家族の意志など関係なく最初から医者は全力で治療する。問題となるのは、助からぬ人、つまりは寝たきりの高齢者や癌末期患者に行う医療である。
意識が無く、点滴だけでも生き延びることが出来る時代です。
でもそれが、その人にとって幸せな人生なのか、作者は問われています。
結論の出ない問題だけに、各自で考えなけれないけない時代である事だけは、確かです。
<森浩美>さんと聞いても、ピンと来ませんでした。
<SMAP>や<Kinki Kids>、<酒井法子>等の作詞を多く手掛けている作詞家さんだそうですが、いい短篇を書かれています。
歌詞では、凝縮された世界を表現しなければいけませんが、小説となると幅が広がるのか、心温まるお話が出来あがっています。
愛する人との分かれ、夫婦の関係、親子、人間が生きてゆく日常生活では様々な情景が生じていることだと思いますが、心の変化をうまくとらえておられます。
NHKのラジオドラマでも放送された内容ですので、わたしも読みながらホロッと涙ぐんでしまうことがたびたびありました。
人間関係に疲れたあなたに、ぜひ読んでいただきたい短篇集です。
12月23日のイブイブから、12月24日のクリスマスイブまでの一日を、青森駅を舞台として、鉄道マンと乗客との人間模様が描かれた一冊でした。
主人公は26歳の<城野修一>で、車掌研修時代のある不祥事で駅員として青森駅に勤務していますが、改札口で9年ぶりに元カノの<横須賀敦子>と偶然顔を合わせるところから物語は始まります。
突然青森駅を襲った爆弾低気圧の大雪で各電車が止まり、選挙の応援演説に来る総理大臣が電車内閉じ込められ、一人で家出してきた5歳の<健太>、白血病の<千里>とその看護師である<北井彩>、推薦受験のために東京に向かう<修一>の後輩<遠藤>など、なんとかして24日中に東京に行かなければならない登場人物たちが、クリスマス寒波に巻き込まれ身動きが取れなくなってしまいます。
青森駅長代理の<山下麻衣子>は、<修一>を駅員として現場に戻した上司ですが、この巻き込まれた乗客たちを救うために<真の鉄道マンとはなにか>を<修一>の行動に教えられ、辞表覚悟である行動を決断します。
それぞれの人生が交錯するエンディングの構成は、猛吹雪の冷たい青森駅のイメージから、ほのぼのとした暖かい気持ちに切り替えさせるてくれました。
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