(中公文庫)として著者には、 「刑事・鳴沢了」シリーズ や 「警視庁失踪課・高城賢吾」 シリーズ がありますが、本書も25歳の新人刑事<一之瀬拓真>を主人公に、シリーズ化となりそうな文庫描き下ろし作品です。
3年間の交番所勤務を終えた<一之瀬>は、住居の少ない千代田署刑事課強行犯係に転属、管轄地域はビジネス街で窃盗犯が多い中、配属初日に殺人事件が発生。48歳の先輩刑事<藤島一成>とコンビを組み、初めての殺人事件の捜査に乗り出します。
恋人<深雪>とのデートもままならない中、<一之瀬>は刑事としてのイロハを、先輩刑事の<藤島>から教わりながら、第一歩を踏み出していきます。
物語全体が、<一之瀬>の目線で描かれていますので、新人としての彼の思考過程が読者に共感を覚えさせ、この後一人前になってゆく過程が楽しみな新シリーズになりそうです。
短大に非常勤講師として務める<由樹>は、39歳です。
19歳の時、高校の親友である<菜々子>の下宿先の部屋で、2歳年上の<菜々子>の彼、政治家の秘書をしている<真山昇平>に体を奪われてしまい、<菜々子>とも疎遠になってしまいます。それ以降、心の隅で愛情と憎しみの裏表を<真山>に感じながら、人生を過ごしてきています。
自らも一度は見合い結婚で4年ばかりの生活を海外で過ごすのですが、夫と触れ合う気持ちが生まれずに離婚してしまいます。
32歳の時に再開した衆議院議員の<柏井惇>の愛人としての立場で幸せを感じているとき、その彼の秘書として<真山>が登場、昔の思い出が甦ってきます。
二人の男の間で揺れ動く女性の心理を見事に描き切っており、結末は一抹の安堵感を与えてくれていますが、最後まで展開が読めない緊張感のある文章が続く一冊でした。
主人公は新宿署の警部<刈谷亮平>で、キャリアの上司を殴ったことをきっかけに免職の危機のとこ、署長から表に出ない操作をする「密命捜査班」の主任を任されます。
4人のメンバーは表向きは捜査資料室のスタッフという閑職ですが、それぞれに個性ある人材で、各種の事件をスピード解決してきています。
今回は、元ショーダンサーで<刈谷>の情報屋だった女性が扼殺され、同時に麻薬捜査官が一人拉致される事件が起こります。
二つの事件につながりを感じた<刈谷>は、メンバー共々地道な捜査を始めていきます。
警察関連モノがお得意な著者だけに、捜査の流れや警察内の隠語などが随所に散りばめられ、小気味よい文章で楽しめました。
著者は東大大学院薬学系研究科修士課程修了の経歴を持ち、現在は大手製薬会社の現役研究員として小説を書いています。
本書は、四宮大学の理学部化学科の<沖野春彦准教授(通称Mr.キュリー)>を探偵役に、庶務課に勤務する新人職員の<七瀬舞衣>とのコンビで、大学内で起こった5つの事件を解決する短篇集です。
校内で掘られた穴から見つかった化学式の暗号、癌に対する「ホメオパシー」での医療問題、「クロロホルム」の実際の効用等、理系でなくても楽しめる内容です。
著者の得意分野である化学の知識をわかりやすく散りばめ、事件の推理の元となる構成は、面白く読めました。
本書は、会員制情報誌「選択」に掲載された26の組織や制度の裏面を暴く、緻密な取材記事でまとめられています。
全体は3部の構成で組まれ、第1部は「生命保険業界」の名ばかりの<総代制度>や、「パチンコ業界」と警察との関係といった<欲望が生み出す闇>の世界、第2部は外務省の裏金作りの砦「国連大学」をはじめ「ペットブーム」にまつわる<とがめるものなき無為無策>の世界、第3部は「医系技官」や「食品安全委員会」などの<国民の背信行為は続く>の世界とまとめられています。
単行本は平成22年に刊行、文庫本は加筆訂正されて平成24年11月に発行されていますが、今読み直しても体質的に官僚主義や護送船団方式の体制は変わることなく続いています。
現状の詳細を掲載できない新聞やマスメディアのジャーナリズムとしての使命感を疑問視すると共に、地道に告発を続けている「選択」というメディアが存在することに、一抹の希望を感じました。
30歳を過ぎた<枝里>は、子供に暴力をふるう夫と別れ、一人で子育てをしています。
就職の面接活動のときにベビーシッターを雇うのですが、来たのは20歳の専門学校の男の子<知己>でした。
何回か会ううちに<知己>に恋心を抱くのですが、一回り年上ということもあり、本気になれないまま自然と別れることになるのですが、この話がいい伏線になっています。
この伏線の物語と、子供のいるサラリーマン家庭の家族の状況や夫側からみた夫婦感の物語が交互に8編納められています。どのような結末になるのか、読者に疑問を感じさせながら、最終章で「あっ」と驚かせるまとめ方で感心しました。
市井の家族の絆を中心に据え、恋愛や家族の感情をうまく表している作品でした。
スウェーデンを舞台にした<アルネ・ダール>の 『靄の旋律』 は、文庫本で530ページを超える大作でしたので、少し息抜きと考え、気軽に読める<十津川警部>シリーズです。
女優の<衣川愛理>は、休日に嵯峨野トロッコ列車に乗り合わせた際、奇妙な脅迫行為を受け警察署に届け出ました。
数日後、東京の江戸川土手で非常勤講師の<野中和江>がジョギング中に射殺されてしまいます。
共に独身で25歳の情勢だけが共通項目で、犯人たちの狙いがわからないなか、西伊豆に同僚3人で旅行に来ていた25歳のOLが、射殺されてしまいます。
<十津川警部>を中心に、なぜ25歳の女性ばかりが狙われる背景が掴めない状況で、京都府警・静岡県警との合同捜査が始まります。
緻密な作品とは言えませんが、軽いタッチのミステリーとして楽しめました。
小説の舞台ははスウェーデン、主人公<ポール・イェルム>は、移民問題絡みの人質事件の犯人を特殊部隊の到着を待たずに一人で乗り込み、犯人を確保するのですが、職務規定違反で退職しかないときに、国家刑事警察「捜査班A」への出向を打診されます。
表ざたにはなっていませんが、スウェーデンの大物実業家が二人、頭部に2発の銃弾を受ける、マフィアの手口で連続射殺事件が起こっており、その捜査のために「捜査班A」が、<フルティーン>を責任者として新設され、スウェーデン各地から組織には馴染まない個性的な刑事6人が集められ、精力的な操作が始まります。
刑事という職業にはつきものですが、<イェルム>の夫婦生活の擦れ違いの生活を横糸に、地道な捜査が進められて行きます。
タイトルにある「靄(ミスト)」は、殺人犯が残したカセットテープに収められていたジャズの名曲と関連しているのですが、これも謎解きのひとつですので、明かすわけにはいきません。
著者には、弁護士<深町>を主人公にし <負け弁 深町代言> シリーズがあり、この時の事務所の所在地は三重県伊勢市でした。
今回の『ねこ弁』は、津市を舞台に<藤堂寧々>と<藤堂小雪>の姉妹弁護士の物語です。
へき地での「往診弁護」活動に出向く二人が、その出張先々で起こる事件を、<小雪>の推理で、手際よく解決してゆく短篇が6編納められています。
猫好きの<小雪>ですが、姉の<ねね>の「ね」と<こゆき>の「こ」を合わせて「ねこ」の弁護士の活躍が、コミカルに描かれていて、法廷を舞台とするリーガルモノとは違う活躍が楽しめる一冊でした。
本書は過去に起こった鉄道事故や飛行機事故、食品の安全問題、集中豪雨、福島原発の崩壊などを軸に、どのように組織が対応し、また安全管理を考えてきたかを検証しています。
「想定外」という言葉が独り歩きしている感がありますが、そもそも国民に対す「安全基準」は、法令順守や責任事故防止のいわゆる「合格点の安全」で済ませてきた感があり、事業主としてよりすすんだ安全対策は誰もとってこなかったのがよく理解できました。
遺伝子組み換え作物は、特許社会の中で独占的な利益をもたらしますが、10年後20年後の人間および他の生物や自然環境に対する「想定外」のことには触れていません。
副題には「究極リーダーシップ」とありますが、まさにどの分野においても、「正しいことを勇気をもって実践し組織を発展させることができる人格者」が出てこないと、危機に対する取り組みは難しいと筆者は説いています。
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