今年の読書(55)『蛍の橋(下)』澤田ふじ子(幻冬舎文庫)
6月
23日
本書では、美濃焼の再興を夢見る陶工の「平蔵」とその許嫁の「お登勢」との関係と、徳川家に屈した豊臣家の元家人たちが、浪人40万人を結集させて徳川幕府に謀反を企てる人物たちとが交錯してゆく展開なのですが、読み手としては、標題にもなっています『蛍の橋』の意味は文中で理解できるのですが、「平蔵」と「お登勢」の恋物語は皆無といってよく描かれていません。
当時の茶の湯の状況や焼き物の状況は面白く読めましたが、「平蔵」の陶工としての結末を期待していただけに、肩透かしを食らった感で読み終えました。滋賀県の「湖東焼き」を扱った時代小説として、<幸田真音>の『あきんど 絹屋半兵衛』(2006年)は、丁寧な「湖東焼き」の歴史書としても秀逸でしたが、本書は、徳川幕府初期の時代背景が主体な感じで、陶工としての生き様を期待していただけに残念な終わり方でした。
許嫁の「お登勢」のその後の人生が、気になります。