今年の読書(54)『蛍の橋(上)』澤田ふじ子(幻冬舎文庫)
6月
18日
大阪夏・冬の陣が結末を迎え、豊臣側の敗北で徳川の治世が始まった頃。名工「蔵右衛門」の孫「平蔵」は恋人の「お登勢」に支えられ、新しい美濃茶陶を復興させる夢をもって修行に励んでいました。
「平蔵」は許嫁の「お登勢」が奉公する京都の「久々利屋」を通じ、京都に陶芸の修業に出向く際、道中で「東庵」という謎めいた僧侶と出会い、強い信頼を感じます。
しかし、「東庵」には、徳川側に滅ぼされた「真田幸村」の嫡子〈大助〉であるという隠された顔がありました。『板倉籠屋証文』から浮かび上がった意外な新事実を元にして<澤田ふじ子>の目線で見つめる徳川幕府の政治体制、作陶芸術にかける男の野心、恋が描かれる予兆は感じ取れました。
著者の故郷である滋賀県の「湖東焼き」を扱った時代小説として、<幸田真音>の『あきんど 絹屋半兵衛』(2006年)は感動的でしたが、それにも勝る焼き物の世界が楽しめそうな幕開けを感じさせる上巻でした。