今年の読書(59)『きみがすべてを忘れる前に』喜多南(宝島文庫)
11月
30日
<クロ>は、<高嶺志郎>と、<志郎>の幼なじみで重い病を抱える女子生徒<長谷川紫音>と、桜の木の下で友情を育んでいましたが、ある時<クロ>は、自分が<紫音>に恋をしていることに気づきます。
夏休みのある日、<紫音>は手術を控え、<志郎>は<紫音>のもとへ向かうのですが、悲しい出来事が起きます。そして夏休みが明け、<クロ>は<紫音>の幽霊と教室で再会します。
第一話は、地面に這いつくばって何かを探すセーラー服姿の幽霊が登場する。<クロ>は妄念に憑りつかれた彼女に触れ、成仏へ導きます。第二話は、音楽室のグランドピアノの前に立つ男子生徒の幽霊が登場する。妹<黄>は幽霊に体を貸し、彼の願いを叶えるため協力する。第三話は、開かずの指導室で夜な夜なすすり泣く女子生徒の幽霊が登場する。姉<緋色>は、彼女に死を与えて楽にさせる。第四話は、大木の根本に立つ少年の幽霊が登場する。<藍子>は、少年が会いたい幽霊を連れてきて、彼の心残りを昇華させる。
話が進む過程で、<クロ>、<志郎>、<紫音>、それぞれの気持ちが交錯する様子が描かれています。終着点が近づくとともに、幽霊は、多くの記憶、体という拠り所、その全てを失っていく。その前に、<クロ>は徐々に感情をむき出しにして、噓偽りのない気持ちを告げる。
最後に待ち受けているのは、予想外の展開です。彼らの置かれた状況を思い込んで読み進めると、意表を突かれます。