今年の読書(33)『香港警察東京分室』月村了衛(小学館文庫)
7月
1日
昨日6月30日は、香港で国家安全維持法(国安法)が施行されて5年目の日でした。中国の民主化運動が武力鎮圧された1989年の天安門事件以降、香港では毎年6月4日、ビクトリア公園で犠牲者を追悼する「ろうそく集会」が行われてきました。30年以上続いた同集会は香港市民にとって重要な公民教育の場でもありましたが、(国安法)施行後、同集会も警察によって開催を阻止されています。
本書は、2023年4月に単行本が刊行、2025年6月11日に文庫本が発売されています。
民主化運動鎮圧の(国安法)成立以来、日本に流入する犯罪者は増加傾向にあるとのことで、国際犯罪に対応すべく日本と中国・香港の警察が協力するというのが本書の舞台となっています。インターポールの仲介で締結された「継続的捜査協力に関する覚書」のもと警視庁に設立されたのが「特殊共助係」でしたが、警察内部では各署の厄介者を集め香港側の接待役をさせるものとされ、「香港警察東京分室」と揶揄されています。
メンバーは日本側の「水越真希枝警視」ら5名、香港側の「グレアム・ウォン警司」ら5名の構成です。
初の共助事案は香港でデモを扇動、多数の死者を出した上、助手を殺害し日本に逃亡した「キャサリン・ユー元教授」を逮捕することでした。元教授の足跡を追い密輸業者のアジトに潜入すると、そこへ香港系の犯罪グループ「黒指安」が襲撃してくる。
ド派手な銃撃戦に対立グループとの抗争に巻き込まれつつも「ユー元教授」の捜索を進める分室メンバーでした。やがて新たな謎が湧き上がる。なぜ穏健派の「ユー教授」はデモを起こしたのか、彼女の周囲で目撃された謎の男とは。疑問は分室設立に隠された真実を手繰り寄せる。そこにあったのは思いもよらぬ中国国家の謀略でした。
アクションあり、頭脳戦あり、個性豊かな登場人物が躍動するエンタテイメントとして、また香港の民主化運動の背景などの史実を踏まえながら実在の民主運動家<アグネス・チョウ(周庭)>などが登場、政治問題も絡めており、面白く読み終えました。