今年の読書(68)『あの子の殺人計画』天祢 涼(文春文庫)
10月
26日
「椎名きさら」は小学5年生。母子家庭で窮乏している上に親から家のことは任され〈水責めの刑〉で厳しく躾けられていました。ある時、保健室の「遊馬先生」に腕の痣を見つけられ、また転校生の「翔太」にクラスの女子からのイジメの原因を指摘され、自分が虐待されているのではないかと気づき始めます。
一方、JR川崎駅近くの路上で、大手風俗店のオーナー「遠山菫」が刺し殺されます。神奈川県警本部捜査一課の「真壁巧」は所轄川崎署の捜査員「宝生翔太」と組んで聞き込みに当たり、かつて「遠山」の店で働いていた「椎名綺羅」が浮上してきますが、事件当夜、彼女は娘の「きさら」と一緒に自宅にいたというアリバイがありました。「真壁」は多摩署の生活安全課に所属しながら数々の事件を解決に導いた女性捜査員「仲田蛍」の力を借りて、「椎名母娘」に迫っていきます。
刑事捜査物としてのミステリー仕立てではあるのですが、子供虐待の背景と現実に胸が痛む進行でした。
「真壁」登場の際の山奥の白骨死体発見の何気ない新聞記事の伏線も回収できていますし、美人の容疑者「椎名綺羅」に一目ぼれする所轄の刑事「宝生翔太」の行動などや、担任の「小芝先生」などの複雑な人間関係を巧みに構成している展開は、見事でした。目が離せない「真壁・仲田コンビ」シリーズになりそうです。