今年の読書(29)『クスノキの番人』東野圭吾(実業之日本社文庫)
5月
11日
幼いころに母を亡くし、祖母に育てられた「直井玲斗」は、早く独立すべく機械工場に就職しますが、不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに工場に盗みに入り逮捕されてしまいます。
工場経営者の素行の悪さを並べ立て同情を買おうと取調官に訴えますが、その甲斐もなく送検、起訴を待つ身となってしまいます。そんな時、依頼人の命令を聞くなら釈放するという弁護士が現れます。依頼人に心当たりはないのですが、このままでは刑務所生活は間違いがなく、「玲斗」は釈放条件に従うことにします。
依頼人の待つ場所へ向かいますと、底には年配の女性「柳澤千舟」が待っていました。「千舟」と名乗るその女性は驚くことに母「美千惠」の姉だといいます。そして、あまり褒められた生き方をせず、将来の展望もないと言う「玲斗」に対する彼女の命令は、「月郷神社の境内にあるクスノキの番人」をすることでした。
願いを叶えてくれると評判のパワースポットとして名高い場所のようで、「玲斗」は、単なる祈願の聖地だとしか知らされておらず、そのクスノキには思わぬ力がそなわっていることを、日々の業務の中で、わかり始めます。
クスノキの本当の姿、あわせて、母にまつわる人生、「千舟」の人生が巧みに組み込まれ、なるほど<東野>作品だと思わせる(483ページ)の長編ながら、一気に最後まで引き込まれる内容でした、