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今年の読書(68)『みかづき』森絵都(集英社文庫)

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文庫本の本書『みかづき』(2018年11月25日)は、第12回(2017年)中央公論文芸賞受賞作で、617ページという長編でしたが、戦後日本における教育の実態を背景とし長さを感じることなく読み終えれました。

1961年(昭和36年)、千葉県習志野市の小学校の用務員だった22歳の「大島吾郎」は、用務員室で私的な勉強会を始めていました。そこに来る児童のひとり、「赤坂蕗子」に「吾郎」は非凡なものを認めます。「蕗子」の母の「千明」は、家柄の違う文部官僚の男との間に設けた「蕗子」を、シングルマザーとして育てていました。「千明」は「吾郎」に対し、2人で補習塾を開くことを提案します。2人は結婚して近隣の八千代市に「八千代塾」を開き、着実に塾の経営を進めていきます。「吾郎」は教育者「ワシリー・スホムリンスキー」の評伝を書き、2人の間に娘(蘭・菜々美)も2人生まれ、「千明」の母の「頼子」も塾にくる子どもたちの相談役に勤めます。しかし、2人の塾経営をめぐる路線の対立が起き、「吾郎」は塾長を辞め家を出てしまいます。「千明」は塾を進学塾「千葉進塾」にし、津田沼駅前にも進出して、地域の有力な存在となっていきます。

「千明」の長女の「蕗子」は、母親とは離れ、一時期連絡も絶ち、塾の公私であった夫「上田」とともに秋田県に住み、公立学校の教員として、塾とは違う形での子どもたちとの触れ合いを追求します。次女の「蘭」は、塾の経営に関心をもつようになっていきます。三女の「菜々美」は親に反抗し、外国の学校に行くなど、子どもたちの世代はばらばらに歩みはじめます。

「蕗子」は夫の死後、二人の子供「一郎」と「杏」とともに実家に戻ります。「一郎」は就職がうまくいかずに、「蘭」が経営する配食サービスの会社「らんらん弁当」で配達を担当しますが、その途中で、貧困のために塾にも通えない子どもたちの存在を知り、そうした子ども向けの無料の学習塾を立ち上げます。その中で伴侶もみつけた「一郎」は、自分の中に流れる〈大島吾郎の血〉を自覚して、新しい人生の道を開拓しようとするのでした。
#ブログ #文庫本 #読書

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