今年の読書(52)『断絶』堂場瞬一(中公文庫)
10月
13日
本書は 『長き雨の烙印』 に次ぐ第2作目に当たりますが、単独に読んでも差しさわりはありません。
引退を決意していた汐灘出身の大物代議士<剱持隆太郎>は、後継者指名問題で頭を悩ませていました。一人息子の<一郎>を後継指名と考え、そのための教育を施してきたと言っても過言ではありませんでしたが、秘書の<椎名>から<一郎>のことである相談を受け、正義感と倫理観の狭間で揺れ動きながらも、<一郎>のため、ひいては汐灘の将来の活性化のためにと、ある工作をしてしまいます。
翌日、汐灘の海岸で、顎を散弾銃で撃ち抜かれた女性の遺体が発見されます。顔が半分崩れていたため身元は不明ですが、状況からも、そして鑑識の調べでも自殺と判断されてしまいます。だが、遺体が妊娠していたこと、女性が猟銃で自殺した前例があまりないことなどから、県警本部の刑事<石神謙>は自殺とは断定できずに所轄のけいじの協力を得て、独自に捜査を始めます。しかし有力な情報も得られないまま、上からの命令で捜査は中断に追い込まれてしまいます。密かに捜査を続ける<石神>の元に、遺体の身元を知らせる密告電話が入り、女性が地元の大手ゼネコン・汐灘建設の東京支社に勤めていたことが判明します。汐灘建設、それは現在、<剱持一郎>が社長を務める会社でした。
<剱持>の後継問題にも壁が立ちはだかります。現職の県知事が<剱持>に立候補を宣言、そしてまた別の代議士が県議を候補に立てようと画策していることが判明します。
読者はこのあたりで<一郎>が犯人ではないかとの予測ができるのですが、代議士の政治問題と、<石神>の出生問題も絡み合い、剣持親機だけではない父と息子の関係が複雑に絡み合う収束は見事でした。
投稿日 2018-10-13 21:41
ワオ!と言っているユーザー
投稿日 2018-10-14 06:48
ワオ!と言っているユーザー