主人公は南町奉行所の同心で、不慮の事故で亡くなった父の後を15歳で継いだ<藤木紋蔵>です。
勤務中でも居眠りをする奇病ゆえ、外回りの仕事がある与力になれずに30年間内勤を務め、妻<里>と5人の子持ちゆえ、つつましい生活を送っています。
本書は、出世的には望むべくもない<紋蔵>が、人生の真実を見据え、人の痛みがわかるがゆえに世間から取るに足らぬという事件に真摯に取り組む姿勢が、心地よい文章で描かれた8篇からなる連作短篇集です。
<紋蔵>に写本の内職を頼む与力の<蜂屋鉄五郎>、幼馴染の内桜田御門では大座配として籠の整理を取り仕切る<捨吉>などの脇役も面白く、また<蜂屋>の次男<鉄哉>と<紋蔵>の長女<稲>との恋仲も気になるシリーズの始まりの一冊でした。
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