今年の読書(64)『キリング・ヒル』クリス・オフット(新潮文庫)
10月
13日
ケンタッキー州山間にある田舎町ロックソルトの窪地で43歳の未亡人「ノニー/ベロニカ・ジョンソン」の遺体が、アメリカ人参を採集に来た老人「タッカー」に発見されます。争った形跡はなく性行為前後に死亡したことが判明します。
はじめて事件を担当することになる地元出身の郡保安官「リンダ」は、女性差別の町の権力者の元で捜査を始めることになりますが、別居している妊娠中の妻を訪ねて故郷に休暇を取り帰還中の米陸軍犯罪捜査官である兄「ミック」に捜査協力を依頼します。
しかし、不貞のあげく妊娠した妻との関係に悩む彼は、酒びたりの日々を送っていました。妻との夫婦関係に痛む心に鞭を打ち捜査にあたる「ミック」の前に立ちはだかるのは、一様に口を閉ざす田舎町特有の複雑に入り組んだ人間関係でした。
306ページで28章の構成で、小気味よい文体で物語は進みます。本書は2021年に発表された作品ですが、一時期流行のハードボイルド作品を思わせる硬質な文体で、読者をロックソルトの山間に引きずり込み、入り乱れた複雑な人間関係の意外な事件の結末と「ミック」のその後でした。