医者で作家は数多くいますが、<久坂部羊>もデビュー作品『廃用身』・神戸を舞台とした『無痛』で強烈な印象を持った作家のひとりで、『嗤う名医』以来久しぶりに手にした本書『MRエムアール(上・下)』は、2021年4月に単行本が刊行され、2023年4月10日に文庫本2冊として発売されています。
上巻の書き出しからなかばにかけては、舞台となる大阪に本社を置く中堅製薬会社・天保薬品酒井営業所の社員たちが〈MR〉としての経歴や仕事としての理不尽な体験談の記述が続き、読者に〈MR〉(メディカル・リプレゼンタティブ:医薬情報担当者)という個性ある登場人物たちを顔見世的に描いています。
天保薬品、その堺営業所所長であり、〈MR〉の「紀尾中正樹」は、自社の画期的新薬「バスター5」が高脂血症の「診療ガイドライン」第一選択Aグレードに決定するべく奔走していました。決まれば年間売上が1000億円を超えるブロックバスター(=メガヒット商品)化が現実化します。ところが、難攻不落で〈MR〉泣かせの大御所医科大学学長からようやく内定を得た矢先、治験の論文発表の場で外資のライバル社タウロス・ジャパンの「鮫島淳」による苛烈な妨害工作によって、一転「バスター5」はコンプライアンス違反に問われてしまいます。
窮地に追い込まれた「紀尾中」以下、堺営業所MRチームの社員はタウロス・ジャパンの新薬「グリンガ」の治験データーに疑問を持ち、調べ始めます。息を持つかせぬ文章力で、医薬業界の表と裏を描いたビジネス小説が楽しめた上巻でした。
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投稿日 2023-06-03 23:28
ワオ!と言っているユーザー
投稿日 2023-06-05 06:37
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