今年の読書(3)『罪の轍』奥田英朗(新潮社文庫)
1月
18日
東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年の北海道〜東京です。冒頭では、北海道礼文島で廻りから「莫迦」と呼ばれる20歳の「宇野寛治」が、空き巣を繰り返し、礼文島を去る事件までの経過が描かれています。
放火窃盗事件を起こし、礼文島からオリンピックで賑わう東京に逃げてきた「寛治」でしたが、東京でも空き巣を繰り返しますが、山谷で町井旅館を営む娘「町井ミキ子」の弟「明男」と知り合い、ストリップの踊り子「喜名里子」と同棲生活を始めます。
南千住署管内で、空き巣強盗の上撲殺された「山田金次郎」の所持品だった〈金貨〉がもとで、「寛治」の名が浮かび、大学卒業の警視庁捜査一課の「落合昌夫」が捜査本部に加わります。
撲殺事件の捜査中に、浅草で男児誘拐事件が発生します。日本中を恐怖と怒りの渦に巻き込んだ事件を担当する捜査一課の「落合昌夫」は、子供達から「莫迦」と呼ばれる北国訛りの男の噂を調べ出します。世間から置き去りにされた人間の孤独を、緊迫感あふれる描写と圧倒的リアリティで描き、コンピューターも携帯も、新幹線やDNA鑑定すらない高度成長期の警察の緻密な捜査を刑事の心情を克明に描き出しています。
脇役の「町井ミキ子」や暴力団信和会の若頭補佐の「立木」など面白みのある登場人物も多く、捜査一課配属の29歳の刑事「落合昌夫」のその後が気になり、シリーズ化に期待したい面白さでした。