今年の読書(57)『茶筅の旗』藤原緋沙子(新潮文庫)
6月
29日
「千利休」や「古田織部」などの茶人を主人公に据えた茶道関連の作品は多いのですが、本書は茶の元になる「碾茶」を扱う江戸初期の宇治の名家の生産業者を舞台として、お茶師を引き継いだ「朝比奈綸」を主人公に据え、戦乱の世に凜として立ち向かう、女御茶師のひたむきな半生描いています。
茶人「古田織部」を叔父として慕う朝比奈家の一人娘「綸」は父の跡を継ぎ、極上茶を仕立てる「御茶師」の修業に励んでいました。そこへ徳川・豊臣決戦近しの報がはいります。納品先として大名と縁の深い御茶師たちも出陣を迫られます。茶園を守り、生き抜くにはどちら方につくべきなのか。表題の「茶筅の旗」は、どちらにもつかないという意思表示の茶商の心を表しています。
時代に翻弄されながら茶園主たちの駆け引きを通して「綸」の茶商として、女としての成長を、お茶の生産過程を詳細に織り込みながら、史実に沿いながら描く劇的時代長篇小説として、面白く読み切りました。