今年の読書(122)『晴天の迷いクジラ』窪美澄(新潮文庫)
9月
4日
第一章は、24歳の<田宮由人>です。
3人兄妹の間に挟まれ、なぜか母親は登校拒否の兄と、中学3年生で妊娠した妹の孫にかかりっきりで、<由人>は祖母にかわいがられて育ちます。
東京に出て、デザインの専門学校に通う最中、<ミカ>という女性と知り合いますが、仕事が忙しい<由人>は<ミカ>に浮気されてしまい、失恋の痛手と仕事疲れから「うつ」だと診断、自殺願望がちらついています。
その<由人>が勤めるデザイン会社の社長が<中島野乃花>で48歳。幼いころから絵がうまく、教師にすすめられた絵画教室の<横川英則>の子を18歳で身ごもり、政治家の二世の妻の立場に馴染めず、育児ノイローゼで家を飛び出し離婚しています。
デザイン会社が倒産という時、私物を取りに会社に出向いた際に<由人>は、自殺しようとする<野乃花>と鉢合わせ、どうせ死ぬならニュースで報道されている湾に紛れ込んだクジラを見てからにしようと車で移動中、母との折り合いが悪く家を飛び出してきた16歳の<正子>と遭遇、奇妙な3人連れの旅が始まります。
主人公たちの悩みや苦悩は、読者自身の人生経験と重ね合わせられる部分が多々あり、「生きるとは」を真正面から捉えた重厚感ある長編として、感動を与えてくれる一冊でした。