副題に<素行調査官>とありますが、既刊の『素行調査官』に次ぎ、シリーズ2巻目です。
警察を辞職した元麻薬の潜入捜査員<坂辻誠一>が、縁もゆかりもない山形県で自殺をはかり、乗り捨てられた自家用車のトランクから覚醒剤が発見されます。
山形県警から連絡を受けた警視庁監察係の<本郷岳志>と<北本一弘>は、<入江透>首席監察官の指示のもと、ひそかに山形まで<坂辻>の遺骨を引き取りがてら、彼を自殺に追いやった原因と覚醒剤の調査を始めていきます。
出世欲と金銭欲のうごめくピラミッド構造の警察組織の中で、内部監察チームの捜査と合わせ、<本郷>と関連する探偵事務所の<土居沙緒里>や、<坂辻>の後輩であり交番所勤務に左遷させられた<岸上>等の脇を固める登場人物達もいい人間味を出しており、この先楽しみなシリーズになりそうです。
現実的な物語としての感覚を味わいながら最後まで読み終えましたが、大人のファンタジー物語りとでも表現すればいいのでしょうか、何とも不思議な話しが6編収められています。
主人公<星野一彦>は、「身長が190センチ 体重は200キロ」という<繭美>という見張り役の女に監禁状態にされ、《あのバス》で遠くつれされる前に、交際していた5人の女性ひとりずつにお別れの挨拶に<繭美>と共に出向いていく話しが連作で語られていきます。
粗暴な大女はハーフということで辞書を持ち歩いていますが、「常識」や「悩み」・「上品」などという項目は黒く塗りつぶしているという感性の持ち主で、<星野>との凸凹コンビが織りなす行動が、なんともユーモアたっぷりにまとめられています。
<あのバス>とは何なのか、最後まで明かされていませんが、読み手側の想像力にゆだねられたエンディングで物語は終わります。
物語は、17歳の不良処女<雪乃>が同級生の悪友<翔矢>に、ネットも携帯電話も無料になるプロバイダーを紹介するところから始まります。すぐに無料になるわけでなく、次に誰かを紹介した時から自分の権利が発生します。
また<雪乃>と従姉妹の<可奈子>は、同じ17歳の自殺した同級生の<尚美>の葬儀に母<和泉>と一緒に参列していましたが、<尚美>の死の原因は三角関係にあった<秀則>が原因で、自分にあると心を痛めていました。
<尚美>の自殺に始まり、<秀則>が行方不明、母親を日本刀で惨殺する事件等奇怪な事件が起こり、どうやら無料で登録したプロバイダーつながりの人物たちが危険な目に合っていると<可奈子>達は付きとめるのですが、そこにはネットの中に潜む仮想現実の残虐な世界が関連していました。
「ホラー」と「サスペンス」が合体した構成で、デビューまもない2004年の作品ですが、ネット環境を素早く取り入れた時代背景は今読んでも遜色ない出来ばえで、最後の結末も面白くまとめてあり楽しめました。
副題に<炎と涙の法廷弁論集>とありますように、それぞれの事件を担当された弁護士達の心に残る弁論が集められています。
随所に国語の問題ではりませんが、空白のマスの中に入る言葉を考えるクイズが散りばめられ、弁論の巧みさを実感できrうように工夫されていました。
裁判所や弁護士(代理人)との接触は、非日常の世界だとおもいますが、専門職として裁判所の仕事に関連している関係から、興味を持って読み進めました。
「大阪空港訴訟」・「水俣病公害」「信楽高原鉄道事故」等の社会的に影響のある事件や、「阿部定事件」といった男女間の事件まで幅広く集められており、改めて弁護士の弁論の重要性を感じさせてくれました。
呑み仲間の<なおちゃん>から、「ファルコンさん、面白いから読んでみて」と、この文庫本をいただきました。
娘の結婚式を一ヶ月後に控えた経営コンンサルタントの<北条>は、娘との待ち合わせに間に合わせようと高速道路を急いで走行中、事故に遭い瀕死の状態で病院に搬送されます。
意識が戻ると感じたのは本人の間違いで、突然<K>と名乗る天使が現れ、会社経営で悩んでいる下界の人間5人を幸せにすると、現実の世界に戻れるという条件を出され、持ち前の会計知識を駆使して、5人に対するアドバイスを始めていきます。
わたしも個人事業主として、毎年確定申告には『貸借対照表』を作成して提出していますが、会社規模の経理の仕組みをそれぞれの企業に合わせて分かり易く解説しており、また、主人公でありながら父親としての立場からも家族への愛情が感じ取れる一冊でした。
本書は、2009年6月に逝去されている著者の処女長編小説ですが、第17回の江戸川乱歩賞に応募された作品で、当初のタイトルは『そして死が訪れる』(1971年)でした。
その後タイトルの変更もあり、加筆・訂正を加えながら、最終的に『模倣の殺意』というタイトルで、<創元推理文庫>として2004年8月に再出版されています。
内容を書くとネタバレになりますので省きますが、新人賞を取ったひとりの作家の自殺事件の真相を追い求める<中田秋子>と<津久見伸助>の行動を時系列に並べ、読者を突然「あれっ?」と疑問を感じさせる個所を潜ませながら、最後まで読みきらせます。
叙述トリックの先駆的作品として価値があり、知名度は決して高くない作家だとおもいますが、プロローグからエピローグまで読者が想像もできないような意外な結末に、改稿されているとはいえ40年前の作品とはおもえませんでした。
『笑う警官』にはじまる<北海道警>シリーズの第5弾目が、本書です。
10月中旬の北海道において、函館で病院の屋上からの転落死、釧路港での溺死体、小樽での自動車の爆発による焼死体という事件が起こります。
また、小学校では少女の誘拐事件とおもわれる事件が発生、親子共々姿を消す事件が起こり、偶然とは思えない不審死と誘拐事件が絡んでいると直感した<佐伯宏一>は、ひとり裏捜査を始めます。
捜査を進めるうちに、不審死のメンバーは刑事の情報提供者(=エス)だとわかり、暴力団組織のお礼参りに合っていると判断、警察内部の情報漏れをも追及せざるをえなくなります。
<佐伯>の本来の捜査である乗用車の荷物を狙う路上荒しの事件とも絡め、道警の顔なじみのメンバーである<津久井卓>・<小島百合>・<新宮昌樹>・<長生寺武史>の警官としての人間性も十分に表現されており、シリーズを読んでいなくてもこの一冊だけで十分に楽しめる内容でした。
<ラジオ・ジャパン>が放送している午前1時から始まる深夜番組「オールナイト・ジャパン」に、「この番組が終わったら死にます」という1通のメールが届くところから物語は始まります。
番組ディレクターの<安岡>は、小学生の我が子をいじめが原因で自殺させてしまった過去を持っているだけに、なんとかこの自殺志願者を助けようと局の上司と掛けあいますが、放送局には関係ないと相手にしてもらえません。
番組のパーソナリティーは尼崎出身のカリスマ芸人のひとりである<奥田>ですが、<安岡>の気持ちをくみ取り、放送中に自殺志願者に挑発的な言葉を投げかけ、なんとか手がかりを探そうとしますが、コクコクと番組の終わる午前3時が近づいていきます。
この<奥田>が放送でしゃべるのが関西弁で、これが非常にいい効果をもたらしていました。標準語では自殺志願者に対する呼びかけは弱く、「このクソガキ、出てこんかい」という歯切れのいいしゃべりが、放送終了時間があるなか非常に緊張感を高める役割を果たしていました。
札幌在住の著者としては、地の利を得た「ススキノ」を舞台に描く作品は水を得た魚のようにいつも鮮やかで、映画にもなりました 『探偵はバーにいる』 (1992年)を処女作として、本書は便利屋の<俺>を主人公にした<ススキノ探偵>シリズとして 『探偵、暁に走る』 に次ぐ10作目になります。
<俺>のもとに『探偵はバーにいる』の売春クラブ殺人事件がきっかけで、25年前にススキノから石垣島に逃避したデート嬢の<モンロー>から、「助けてくれ」とのメールが届きます。
逃げている事情を話さない彼女を、希望通り潜んでいた夕張から本州の大間に無事に逃がしてやるのですが、その直後から<俺>は暴力団組織からの嫌がらせを受け始めます。
<モンロー>を送り届けた直後、<俺>の基に4億円分の収入印紙が届き、これが逃げている原因なのかと<俺>は独自で調査を進めていきます。
当時ススキノで一番の美人と謳われた<モンロー>も、50歳を超え老けた女になり果てていましたが、<俺>も52歳になり、青春時代のひと時を呑み仲間として過ごした縁だけで、窮地を救い出す<俺>の生きざまに男気を感じさせる物語です。
幕開けはサンフランシスコの公園で、癌に犯されているホームレス姿の<カーチャ>が殺害され、謎の言葉を残して息絶えるところから始まります。
死の予感を感じていた<カーチャ>は、孫娘<ゾーイ>に一族の女性は代々、シベリアのノリリスクにある「骨の祭壇」の<守りびと>であると教え、謎めいた言葉を書き残します。
弁護士として平穏な生活を送っていた<ゾーイ>は、祖母の言葉の謎を解くためにひとりフランスに渡るのですが・・・。
1937年にノノリスクの収容所から脱走を試みた男女の行動を起点に、KGBの陰謀、女優<マリリン・モンロー>の急逝、ケネディ大統領暗殺などの史実を下敷きに<ゾーイ>の謎解きが始まります。
「骨の祭壇」の謎を求めて動き回り敵からの襲撃を受ける様は、『ダ・ヴィンチ・コード』の暗号解読官<ソフィー>を連想させ、<ロバート>教授に似た潜入捜査官<ライ>が<ゾーイ>を手助けして二人三脚で謎に迫っていきます。
上下2冊の長編ですが、最後のページまでどうなるのかとワクワクしながら読み終えました。
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