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- 今年の読書(17)『手のひらの音符』藤岡陽子(新潮文庫)
著者<藤岡陽子>さん(49)は、本書の文庫本解説によりますと10冊ばかりの著作があるようですが、初めて『手のひらの音符』を読みました。同志社大学文学部卒業後、報知新聞社を経て、タンザニア・ダニエスサラーム大留学、帰国後、法律事務所勤務、結婚を機に、慈恵看護専門学校を卒業し看護師として働きながら小説を書き始めたという特異な経歴が随所に生かされ、人間観察が素晴らしい作品だと感心しました。
デザイナーの「瀬尾水樹」45歳・独身は、勤務している東京の会社が服飾部門から撤退することを知らされます。裁縫好きの子供のころからの夢としてつかんだデザイナーの道でしたが、途方に暮れているときに、中高の同級生「堂林憲吾」から、デザイナーの道を推し進めてくれた恩師「上田」先生が入院したとの連絡を受けます。
今後の針路のこともあり、「水樹」は京都に帰省しますが、幼馴染の「森嶋信也」三兄弟の思い出、特に同級生だった「信也」との懐かしい記憶を甦らせます。
高度成長期前の昭和30年代の社会状況や家族の風景が、文章の合間から広がる中、京都向日町を舞台に「水樹」を中心とした人間関係が見事に描き出された、秀逸の作品でした。
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