神戸は観光都市として人気があるのか、一時期神戸に居を構えていた斉藤栄や、西村京太郎、山村美沙など多くの推理作家が、殺人事件の舞台としてよく利用しています。
今回は神戸市北区にあり、日本三大古湯に数えられる有馬温泉が舞台の推理小説です。
主人公の<京極要平>は、日本造形大学建築学部の教授です。
実家が京都の旅館を経営している素地から、日本の旅館建築を研究しています。
幼馴染の<木俣次郎>の家族たちと名旅館「陶泉 御所坊」にて旧交を温めた翌朝、<次郎>が別館の庭で死亡しているのが発見されます。
有馬署の刑事は誤って転落した事故死として処理しようとしますが、助手の<奈々子>が裏から手を回し、有馬署から兵庫県警の捜査に切り替わります。<奈々子>は総理大臣<鷹山征夫(ゆきお)>の娘であり、<要平>と共に事件解決に乗り出します。
文中に出てくる旅館や建物、街並みや飲食店等はすべて実在しており、「陶泉 御所坊(ごしょのぼう)」は1191年創業の由緒ある旅館です。
古き良き木造3階建てを維持する一方、西洋文化の良さを旅館に取り込む努力をされています。
<京極要平>と<奈々子>の二人を中心に、日本の名旅館が登場する事件簿がシリーズ化されるようで、今後を期待しています。
第一作目の 『孤独なき地』 に続く、<歌舞伎町特別分署(K・S・P)>シリーズの二作目です。
多くの警察小説が出版されていますが、登場人物のあざやかな性格づけが緻密に構成されているのは、著者自らが「10作まで続ける」という構想を持ち得ているからだと見ています。
一作目以降おだやかな歌舞伎町でしたが、暴力団神流会の構成員二人が射殺されるところから物語は始まります。
重ねて、神竜会の幹部までが、中国マフィアに爆弾で処刑される事件が起こり、利権の勢力争いと報復が繰り返されるなか、主人公の<沖>がどう対処してゆくのかが楽しめる一冊です。
前作で登場した新署長の秘書であった<村井貴里子>が、(K・S・P)のチーフに昇格、<沖>は彼女の部下となり捜査を進めざる得なくなる展開も、前作に散りばめられた下地が生きてきています。
暴力団と中国マフィアの抗争のなか、<沖>の部下だった<円谷>の家族が爆弾で殺され、事件解決後に休暇という形で(K・S・P)を去りますが、きっと「10作」までのどこかで復帰してくるのではないかと、期待しています。
若々しいバイタリティーでもって世界中を飛び回られている印象がありますので、曾野綾子さんがはや81歳とは驚きました。
「置いてこそ、人生は輝く」との心意気で、歯に衣を着せぬいつもながらの歯切れのいい文体で、曾野綾子流の独自の目線に拍手を送りながら読み終えました。
・・・つまりあまりにも単純に優等生的な道をえらぶということは、多分それだけで優等生でない証拠なのである。
・・・私の実感によると、人生の面白さは、そのために払った犠牲や危険と、かなり正確に比例している。冒険しないで面白い人生はない、と言ってもいい。
・・・人は最後の瞬間まで、その人らし日常性を保つのが最高なのである。
抜き書きだけでは文意が伝わりにくいのですが、世間の常識にとらわれず、自分独自の価値観でありのままの運命を受け入れる勇気を感じさせてくれるエッセイー集です。
かっては「ウサギ小屋」だと海外から揶揄された時代がありましたが、最近は耳にすることもなくなりました。
現在では「ネットカフェ難民」などという言葉が、一人歩きしているようです。
人間が生活をしてゆく上で、住宅の広さの適正規模が存在するものかは、住宅の設計を生業としていながら難しい問題のひとつです。
著者は、内田百閒の二畳の生活空間や高村光太郎の三畳の山小屋、被爆地長崎で活躍した医師永井隆の<如己堂>と呼ばれたやはり二畳の家等を取り上げ、住空間の意味を検証しています。
それぞれの人たちは、<自分の意思で住みこなそうとしていること>、<狭い中に閉じこもる生活ではなく、友人や地域の人たちとの精神的なつながりがあること>、<狭いけれども精神的な豊かさがあること>を指摘しながら、充実した濃密な空間であったことを確認してゆきます。
わたしの学生時代は、四畳半一間の下宿生活で風呂もトイレも共用でしたが、狭いながらも密度の濃い空間であったことを、思い出しながら読み終えました。
(新潮文庫)では、 『いつか陽のあたる場所で』 に続く、著者の40冊目に当たる本書です。
一般の小説の形式を取らずに、作家の<乃南アサ>が問題定義をする犯罪小説を書き、その犯人に対する刑法上の解釈を、甲南大学法科大学院で刑法の講義をしながら弁護士業務もこなしている<園田寿>さんが、解説をするという形式で書かれています。
身近に起こりえる犯罪のサンプル集として、12編の事件が取り上げられていますが、人間が犯罪に手を染める弱さを感じながら、刑法のお勉強ができる構成に仕上げられています。
単なる犯罪小説に終わらず、人間観察の目線でまとめられた短篇集として、面白く読み終えれました。
プロ棋士養成機関の奨励会、6級から三段までを6年間という早やさでのぼり、中学3年生でプロ棋士としてデビュー、将棋界始まって以来の全タイトル「七冠制覇」を達成している著者です。
将棋を指すことはありませんが、勝負の世界として囲碁や麻雀をたしなんできた身としては、相通ずる気持ちで読み通せました。
小学2年生で何気なく将棋を指し始めた著者ですが、「羽生マジック」といわれる源が垣間見れる一冊でした。
過去の棋譜を検討するのも手法としては大事なことだと考えながら、反面、あくまでそれらは過去のことであり、その手順が正しいのかは分からないと言い切るあたり、さすがです。
常にこれからの先を「読み」・「考え」、過去の失敗は繰り返さない姿勢、『大局観』に立った目線だと感心しました。
主人公は12歳の少年<スティーヴン>で、19年前に起きた連続児童殺害事件の犠牲者として殺された、母の弟<ビリー>の遺体を見つけようと、野草の茂る荒野に出かけてはシャベルで掘り返しています。
被害者の母である祖母は、毎日を鬱積した気持ちで過ごし、母も弟への愛情が、同じ年頃になった長男<スティーヴン>と重なり合い、複雑な感情を抱いています。
なんとか家族の傷をいやし、明るい家庭を取り戻そうと考えた<スティーヴン>は、獄中にいる殺人犯<エイブリー>へ<ビリー>をどの場所に埋めたのかと問う手紙を書き始めます。
手紙の差出人が12歳の少年だと気付いた<エイブリー>は、押さえていた変質者としての感情が甦り、刑務所を脱走して一路<スティ-ヴン>の住む町を目指します。
英国ゴールドタガー賞にノミネートされた作品で、結末がどうなるのかとヤキモキしながらのスリラータッチは、読み応えがありました。
本日をもちまして、書店【神文館】が閉店です。
初代のお店は新開地本通りにあり、一時期は本店とこの新開地タウン店のニ店舗の営業でした。
わたしがはじめて親父さんから書籍を買ってもらったのが小学一年生のときで、新開地本通りの【神文館】でした。
『豊臣秀吉』と『レ・ミゼラブル』です。
あれから何千冊と本を読んできていますが、読書の原点であり、飲み屋さんの行き帰りなどに、お店を覗いておりました。
表だって閉店のことは知らせていないようでしたが、二代目の店主に「長いあいだありがとうございました」と頭を下げれば、一番寂しい立場の店主さんは言葉がなく、無言でうなずかれました。
活字離れと言われて久しいですが、50年以上親しんできた本屋さんがなくなるのは、亡くなった親父の思い出が消えてゆくようで、涙が出てしまいます。
十分に読み応えのある、骨太の警察小説でした。
<K・S・P>とは、歌舞伎町特別分署の略称で、著者の想像した架空の警察部署です。
犯罪の多い地域として、主人公の刑事<沖幹二郎>以下3名の部下でもって歌舞伎町界隈を取り締まるのですが、近隣各署と縄張りが違いますし、同じ署内でも捜査一課とは反目しあっています。
新署長が赴任してくる日の朝、署の正面玄関で空きす巣を働いた容疑者を連行中の刑事達が狙撃され、出勤中の目の前で起きた事件に<沖>は射撃犯を追い求め、一人は仕留めますが、もう一人の犯人を逃してしまいます。
歌舞伎町でのヤクザとチャイニーズマフィアの抗争だと思えた事件が、複雑に絡み合い、警察内部の密告者や政界の人物も絡み、複雑な裏組織の実態が浮きあがってきます。
スキンヘッドの主任<沖>をはじめ、個性ある部下たち、新署長の秘書といいながら現場で頑張るキャリア警部<村井貴里子>等、脇役もしっかりと固められています。
読者に結末を想像させながらの小気味よい展開で物語は進みますが、思わぬラストの悲しい結末に裏社会の現実を感じました。
著者は<K・S・P>シリーズを10冊は書きたいと言われているようで、これは第一作目になりますが、現在4冊まで刊行されています。
この事件で絆が生まれた<沖>と<村井>のその後の関係も気になりますので、順次読み進めたいシリーズです。
スポーツ紙の元記者として、プロ野球などに精通しているだけに、野球賭博が主題のスポーツ小説かと思いながら読み始めました。
主人公<浪岡龍一>は、少年時代から名の売れたピッチャーで、甲子園の出場を経て、プロ野球チーム「スターズ」のエースとなります。
東京オリンピックを境に、高度成長してゆく時代を背景に暴力団の賭博の実態を織り込んでいますので、日本社会の裏面を垣間見ることが出来ます。
少年野球時代からプロ選手として活躍してゆきますが、常に<浪岡>の回りには八百長賭博の疑惑が付きまとい、読者は最後まで結末が分からないままに付き合わされるミステリー仕立ての構成です。
高校野球の同僚<四之宮>は、<浪岡>に野球部を追放された恨みを持ちながら、週刊記者として<浪岡>の八百長を必要に追い求め八百長記事を書き続けます。
暴力団絡みで自殺した父を持つ刑事<半澤>も、キャリアながら暴力団に対しての反感から、野球賭博の捜査に執念を燃やしています。
<四之宮>や<半澤>の脇役が物語を引きしめていて、最後まで飽きることなく、読み終えられました。
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