今年の読書(28)『禁断領域イックンジュッキの棲む森』美原さつき(宝島社文庫)
5月
6日
大学院で霊長類学を研究する大学院生「父堂季華」が所属する霊長類研究室に、米国企業「ゴールドフロンティア」から密林のコンゴでの道路建設に関するアセスメントへの協力依頼が舞い込みます。
調査対象である「ボノボ」の生息地を目指してコンゴの大地を進む調査隊でした。彼らは森の中から、「モノキ」に村を全滅させられたと逃げてきた少年「ビーリャ」に出会います。その矢先、調査地付近の、休憩地の村で人々が何者かに惨殺される場面に遭遇します。
学会から干されている霊長類研究者「広瀬」の唱えていた幻の類人猿の「ライオンイーター」と思える残虐的な殺戮場面や、反面に「父堂季華」が研究目的とする「ボノボ」への敬愛など、猿やオラウータンといった霊長類に関する学術的記述や関西弁の指導教官「黒澤教授」、米国企業の「ヴィクター・リオス」といった個性ある登場人物たちが交差する構成で、話の展開に引き込まれ、一気呵成に読ませる内容でした。
何より密林に潜む「幻の類人猿・ライオンイーター」なのか「モノキ」なのか、新種の霊長類なのかと、謎の生物の正体が気になりコンゴの密林にくぎ付けでした。
アフリカの開発問題、自然界の動物の環境等、考えさせられる問題を定義している面もあり、終末は<マイケル・クライトン>張りの冒険アクション場面になりますが、身長150センチしかない勝気な「父堂季華」と〈イックンジュッキ〉のメスたちと少年「ビーリャ」の対立の顛末は、意外でした。