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今年の読書(39)『夏の裁断』島本理生(文藝春秋文庫)

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著者の<島本理生>(1983年5月18日~)は2018年7月18日、『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞したばかりです。7月10日発売の本書は、最新刊です。2015年の芥川賞候補作「夏の裁断」に書き下ろし三篇を加えた文庫オリジナルです。

「夏の裁断」「秋の通り雨」「冬の沈黙」「春の結論」の順に物語は進んでいきます。小説家の<萱野千紘>は、祖父の残した鎌倉の古民家で蔵書を裁断して「自炊」する生活を始めます。季節ごとに現れるそれぞれの男たちと関係を持ち、時に翻弄され、苦悩する<千紘>の四季が描かれていきます。ここで言う「自炊」とは、書籍を裁断・解体し、スキャナーで読み取り、デジタルデータに変換することです。

パーティ会場で編集者の<柴田>とばったり顔を合わせた<千紘>は、とっさにフォークを握りしめ、彼の手首にフォークを突き立てる。「柴田さんが振り返る。色素の薄い前髪から覗いた目は傷ついたように見開かれていた。被害者と加害者っておんなじだ、とぼんやり思った」という夏の冒頭シーン。<千紘>と<柴田>との間に潜む、ただならぬ事情を予感させる場面です。

「ああ、この世にはまだこんなに人を傷つける方法があったのか、と死んでいくような気持ちで思った」。心が通ったと感じた瞬間に突き放される関係性の中で、<千紘>は深く傷ついていきます。<千紘>は13歳の頃、大人の男性に性行為を強要された経験を持っていました。男は怖いものだという感覚が、大人になった<千紘>にトラウマとして残っています。

<柴田>への膨大な我慢と混乱の時間は、何の意味もないと悟った<千紘>は、会社員の<清野>と<秋>に出会います。軽さと細やかさを内包した<清野>は、どこか<柴田>と似ていた。「ないと分かっていても完ぺきで永遠なものが欲しい」と願う冬を経て、小説家として、人間として<千紘>が変化する春。やや陰りのある登場人物たちに魅力を感じながら、行間の世界に入りこんでいきます。
#ブログ #文庫本 #読書

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