本書には文庫本のタイトルとなっている連作短篇である『遊戯』と、『オルゴール』が収められています。
著者は食道癌のためにすでに2007年5月17日に59歳で亡くなられていますが、それぞれの短篇は『小説現代』の2005年1月号から2006年3月号に掲載されました。
『遊戯』は、ネットの対戦ゲームで知り合った派遣会社勤務の<本間透>31歳と、<朝川みのり>20歳を中心に据えて物語は進みます。
初対面で<本間>は、<みのり>に対して外交官の父が自分が子供の頃に虐待をしていて、遺品の中にあった拳銃を保持していることを打ち明けてしまいます。
<みのり>はアルバイトで登録していたモデル事務所のテレビCMがヒットして人気が出ますが、ある日撮影のときに自転車にのった不審な男の視線を感じてしまいます。
その自転車の男は、<本間>が歩道を歩いているときにぶつかりそうになり押し倒した男であり、ストーカーとして気になる存在ですが、作品は未完で終わり、どのような結末が待ち受けていたのかは知る由もありません。
『オルゴール』は、会社倒産寸前の社長<日比野修司>41歳が、33歳で事故死した妻<祥子>の遺品を整理していた時に見つけたオルゴールの裏側に、富豪であり前夫の<夏目重孝>51歳の「祥子へ、重孝より」の献辞を見つけ、金策の下心を持ちながらオルゴールを形見分けという形で<夏目>の自宅を訪れるところから物語は始まります。
どの短篇も研ぎ澄まされた緊張感のある登場人物たちの会話が気持ちよく、登場人物を深く切り込んでいく著者の文体が完結されています。
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