今年の読書(84)『一茶』藤沢周平(文春文庫)
10月
28日
子どものあどけない様子や、カエルやスズメを読み込んだ俳句より、穏やかな性格をうかがわせますが。その素朴な作風とは裏腹に貧しさの中をしたたかに生き抜いた男としての実態をあからさまに描いています。
俳人としての名誉欲、継母が生んだ弟との10年に渡る家と田畑の遺産相続への執念、晩年52歳で娶った「菊」(28歳)、「雪」(38歳)、「やを」(32歳)の若妻三人との荒淫ともいえる夜の営みを過ごした晩年等、貧しさの底辺で俳諧師として30年江戸を拠点に全国を回ったしたたかな男の貌を描き出しています。
俳諧は、「一茶」にとって喰うための手段でしたが、それ以上に芸であったと、65歳で亡くなるまでを締めくくっています。