今年の読書(90)『あの日、松の廊下で』白蔵盈太(文芸社文庫)
11月
21日
討ち入りを主体にするのではなく、その史実の裏側の人間模様を描いた番外編として<竹田真砂子>の『白春』や<葉室麟>の『花や散るらん』がありましたが、本書<白蔵盈太>の『あの日の、松の廊下』も、討ち入りに関して、なぜ<浅野内匠頭>が松の廊下で<吉良上野介>を斬りつけたのかを、「止めてくださるな梶川殿」の台詞で有名なその場に居合わせた大奥御台所付き留守居役の<梶川与惣兵衛>の視点で描いています。
史実に寄り添いながら実に巧みな構成と、江戸城という大組織に勤めるわずか700石の旗本の侍の悲哀を、軽妙な筆致で描いた群像劇的な人間関係の描写で楽しめました。本書は「第3回歴史文藝賞最優秀受賞作」ですが、さもありなんと思える一冊でした。