今年の読書(75)『夕映え天使』浅田次郎(新潮文庫)
9月
27日
東京の片隅で、中年店主が老いた父親を抱えながらほそぼそとやっている中華料理屋「昭和軒」。そこへ、住み込みで働きたいと、わけありげな女性「鈴木純子」が現れますが、半年ほどで突然姿を消してしまいます。そんなある日、長野県の軽井沢署から、身元不明の女性の遺体から、「昭和軒」のマッチ箱が発見され、連絡が入ります。なぜうらびれた中華料理店に住み込みで働かなければならなかったのかの『夕映え天使』。
親の離婚で祖父の家で暮らすことになった少年が幼くして「さよなら」ばかりの「わかれ」を経験する『切符』
昭和39年の高度成長期から37年を務めた会社を定年退職する日の「高橋部長」の会社での「特別な日」を描いた回想録かと読者に思わせながら、実に壮大なSF作品の導入部だった『特別な一日』
女房・子供に逃げられ、大きな手柄もなく定年前の休暇として東北地方へ一人旅に出た老警官「米田」は、ふと入った喫茶店で、妻を殺した時効1週間前の指名手配犯のマスターと遭遇、大手柄を夢見る『琥珀』
高台に建つ大豪邸の少女と、下町に住む男子高校生二人の人生の交錯を描いた『丘の上の白い家』
著者自らの自衛隊時代の富士山麓の樹海での演習を元に描いた『樹海の人』など、人生の不可解な出会い・すれ違いを切り取り、「もののあわれ・せつなさ」を味あわせてくれる短編集でした。