今年の読書(36)『イシュタムの手』小松亜由美(小学館文庫)
7月
17日
本書『イシュタムの手 法医学教授・上杉栄永久子』は、『STORYBOX』に掲載された3篇を文庫化に当たり加筆改稿され、書下ろし2篇を加えて、2024年7月10日に文庫本として発売されています。
医者ぞろいの家族として、大学受験に失敗し、東京の実家を出て秋田医科大学に進学した「南雲瞬平」です。ある出来事をきっかけに、大学卒業後は博士課程に進み、法医学教室に所属しています。秋田県内で発見された異状死体の法医解剖は全てここで行われます。上司の「上杉永久子教授」は自殺研究の第一人者です。抜群の解剖技術と観察眼を持ち、死者と死者を見送る者への敬意を尊重する一方、その想いが先走り、周囲を振り回すこともたびたびでした。
年末、運び込まれてきたのは二体の焼死体でした。高齢で寝たきりの妻とその夫とみられる。無理心中事案と思われていましたが、「上杉」は両者の臓器に似たようなポリープがあることに着目、警察にある指示を出します。これにより、意外な事実が明らかになります。
一家の食中毒事案、生後二か月の乳児の死亡事案、夏祭りでの毒物混入事案、そして、「南雲」が法医学を目指す動機となった過去に起きたある人物の死にまつわる衝撃的な出来事とあわせ「上杉永久子教授」が自殺研究の第一人者となった過去が見事に物語の中で融合し、常識に縛られない「上杉」と、一人前の執刀医を目指す「南雲」のコンビが事件の真相に迫るミステリー仕立ての構成になっています。
一家の食中毒事案、生後二か月の乳児の死亡事案、夏祭りでの毒物混入事案、そして、「南雲」が法医学を目指す動機となった過去に起きたある人物の死にまつわる衝撃的な出来事とあわせ「上杉永久子教授」が自殺研究の第一人者となった過去が見事に物語の中で融合し、常識に縛られない「上杉」と、一人前の執刀医を目指す「南雲」のコンビが事件の真相に迫るミステリー仕立ての構成になっています。
現役解剖技官の著者が描く、司法解剖のリアルな描写、そして舞台となる自然豊かな秋田の風物や風景・方言を織り込んで、私たちの隣にある「死」について深く考えさせられる、新たな領域に踏み込む法医学ミステリとして、十分に楽しめ、今後の「南雲」の成長と、修士の院生「鈴屋玲奈」との関係も気になり、シリーズ化を大いに期待したい作品でした。
表題に使用されています〈イシュタム〉は、神話好きの「南雲」らしくマヤ神話の「自殺を司り、死者を楽園に導く女神」のことを意味し、物語の伏線として適した言葉だと、読後に感じ取れます。