今年の読書(82)『ヴァイタル・サイン』南杏子(小学館文庫)
12月
23日
医師であり作家の<南杏子>は、<吉永小百合>主演映画『命の停車場』(2021年・監督:成島出)の原作者ということで、気になっていましたが、解説者が<久坂部羊>ということで、今回本書『ヴァイタル・サイン』を手にしました。
2021年8月18日に(小学館)から刊行され、2023年10月11日に文庫本として発売されています。
物語の舞台は二子玉川グレース病院で、看護師として働く「堤素野子」は、元看護師の母の介護をしながら31歳になり今後のキャリアについても悩みながら忙しい日々を過ごしていました。患者に感謝されるより罵られることの方が多い職場で、休日も気が休まらない過酷なシフトをこなしますが、同じ病院の整形外科医である恋人「市川翔平」と束の間の時間を分かち合うことでどうにかやり過ごしていました。
あるとき「素野子」は休憩室のPCで、看護師と思われる「天使ダカラ」という名のツイッターアカウントを目にします。そこには看護師として決して口にしてはならないはずの、実体験の本音が赤裸々に投稿されていました。若い看護師「大原桃花」や看護助手の見習い「小山田貴士」の指導をしなければならず、心身ともに追い詰められていくにちじょうが、現場ならではのリアリティーで描かれていきます。
お仕事小説とみれば、将来の看護師希望者には読ませたくない現実感が伝わる「看護師残酷物語」とでもいえる現実を医療現場従事者ならではの目線で《白衣の天使》の裏側をなまなましく見事に描いています。