今年の読書(58)『怖い患者』久坂部羊(集英社文庫)
9月
20日
医者・患者にまつわる5篇の短編が収められています。帯カバーには落語家の<桂南光>氏が「お薦めできませんが、ハマリますわ。」の言葉を寄せていました。現役医師の作家・久坂部羊が描く、強烈にブラックなイヤミスな短編集です。
第1篇の『天罰あげる』は、区役所に勤務する「愛子」は、同僚女子の陰口を聞いたことがきっかけで、たびたび「発作」を起こすようになります。この世の終わりに直面したような、とてつもない恐怖に襲われ、心療内科で受けた「パニック障害」という診断に納得できず、いくつもの病院を渡り歩く〈ドクターショッピング〉が始まります。
また4篇目の『老人の園』は老人施設の現場の縮図として、介護施設を併設する高齢者向けのクリニックには、毎日多くのお年寄りが集まってきます。脳梗塞で麻痺のある人、100歳近い超高齢者、150㎏近い体重で車椅子生活を送る人など、さまざまな症状の利用者みなに快適に過ごしてほしいと医師の施設長は願いますが、老人たちにはもめごとが絶えません。
強烈なブラックユーモアで医療現場を切り取った短篇が並び、「親ガチャ」ならぬ〈患者ガチャ〉の恐怖が現役医師だけにジワリと伝わる一冊でした。