今年の読書(99)『ミトンとふびん』吉本ばなな(新潮社)
12月
29日
『夢の中』=(金沢)、『SINSIN AND THE MOUSE』=(台北)、『ミトンとふびん』=(ヘルシンキ)、『カロンテ』=(ローマ)、『珊瑚のリング』=(香港)、『情け嶋』=(八丈島)を舞台として6篇の短篇にはそれぞれ、別れや、大切な人の死、何かしらの喪失を経験した主人公が登場しています。ページをめくり始めて感じるのは、激しい言葉や展開はなく、おっとりとした主人公と穏やかな文章であるにも拘らず、いつしか〈吉本ワールド〉に引きずり込まれていました。
愛は戦いじゃないよ。愛は奪うものでもない。そこにあるものだよ。たいせつなひとの死、癒えることのない喪失を抱えて、生きていくということ。
凍てつくヘルシンキの街で、歴史の重みをたたえた石畳のローマで、南国の緑濃く甘い風吹く台北で。今日もこうしてまわりつづける地球の上でめぐりゆく出会いと、ちいさな光に照らされた人生のよろこびにあたたかく包まれる全6編が心にしみる短篇集です。