今年の読書(95)『美麗島紀行 つながる台湾』乃南アサ(新潮文庫)
12月
9日
本書は〈ある時代は同じ国民となり、また離れ、それでもよき隣人であり続ける21世紀の台湾を見つめ、書き留めていくと共に、「今に至る」人々の記憶と。かってこの島で生き、暮らした人たちの生き吹をきしていくことを目的〉として編まれています。
美しき、麗しの宝島、台湾。オランダ・スペインの侵略を経て数奇な運命を辿ったこの島に魅了された著者が、丹念に各地を歩き、人々と語り合い、ともに食べ、台湾の素顔を描き出しています。
日本人の親友の妹と結婚した考古学者、日本統治下時代を「懐かしくて悔しくて」と語る古老、零戦乗りを祀る人々。そうした彼らの面影に、著者は日本の統治の50年間の歴史を浮かび上がらせています。
「なぜ、東日本大震災の時に米国を上回る義援金が台湾から贈られたのか」に疑問を持ち、近代史を学んでいない歴史の裏側に埋没されてしまった史実に寄り添いながら、著者ならではの視点で台湾の過去と現在をまとめ上げられた珠玉の紀行エッセイでした。各章の終わりに掲載されている白黒での写真が、文章と合わせて印象に残る構成でした。