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今年の読書(29)『いっちみち』乃南アサ(新潮文庫)

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今年の読書(29)『いっちみち...
著者<乃南アサ>の作品は、私と誕生月日が同じということで縁を感じ、割と多く登場しているとおもいますが、本書『いっちみち 乃南アサ短編傑作集』は、単行本未収録作品を加えた2021年3月1日発行の文庫オリジナル短編集として、8篇が収められています。

1番に登場して、標題にもなっています『いっちみち』は、大分県の方言で、「行ってみて」と意味合いのようです。
●『いっちみち』・・兄や母親の起こした不祥事で親子4人が、広島に夜逃げ、離婚した母の後を追って四国松山に住み老人施設で働く46歳の「芳恵」は、新型コロナ禍の休職中に30年ぶりに故郷の大分県の臼杵に帰郷、思わぬ人物と遭遇します。
●『ルール』・・溝口家4人家族の、日常生活における潔癖な息苦しさを感じさせる家庭内の決まりごとが綴られていきます。
●『青い手』・・本短篇集で、一番のお気に入りでした。遠回しの意味深な描写で描かれる、線香屋の隠れた秘密、最高のブラックユーモアです。
●『4℃の恋』・・病院勤めの孫の「昌世」とその一家が、死期が迫っている祖父に対する、各自の我儘な行動をかなえるために取った行動とは。
●『夕がすみ』・・両親が亡くなった9歳の「かすみ」を引き取った一家に起こる不慮の事故の原因とは。
●『青い夜の底で』・・アイドル歌手に恋した女性の視点で綴る、変質的な思い入れの結末とは。
●『他人の背広』・・システム開発の仕事で顧客先の作業に出向いた滝口は、残業で待ち合わせ時間に間に合わなくなり、帰社を急ぐあまり、更衣室で間違った背広を着て出てしまいます。待ち合わせはかなわず、背広に入っていた3万円で飲み歩いた帰り酔って喧嘩を起こすのですが、事件は思わぬ方向に向かってしまいます。
●『団欒』・・「浩之」は父親の車でデート中に相手の女性は行為中に突然死んでしまい、その死体を乗せて帰宅した一家のその後が描かれていきます。「団欒」と言う言葉に込められたいびつな家族愛を恐ろしく感じさせてくれました。

全体的に、「にんげん」と言う最大のミステリーを機知に富んだブラックユーモアで綴った短編集でした。
#ブログ #文庫本 #読書

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