料理写真家<星井裕>を主人公とするシリーズも、2008年8月に刊行された第一作目の 『京都 大文字送り火 恩讐の殺意』 に始まり、本書で10作目になります。
秋の行楽シーズンの京都に<星井>は、助手の<小林健>といつも通り『ルネッサンスジャパン』の料亭特集の取材に東京から出向いてきますが、途中ですれ違った女性が直後に京阪電車に撥ねられて死亡してしまいます。
死亡したのはフードライターの<松木洋子>で、関東の料理業界から土俵の違う関西に移り、あまり料理業界では評判が良くありませんでした。そんな中、グルメガイドブック『アンジェロイド』を発行する会社の重役が、自動車事故で亡くなる事故が起こります。
今回も<星井>は、京都府警洛東署に勤務する別れた妻<安西美雪>の捜査に協力しながら、一連の事件の解明に乗り出します。
京都生まれの著者らしく、『ミシュラン』のような星の格付けに対して、「京都の店をかくづけするなんて、とんでもないこと」と批判されていますが、素材から調理、客の接待に至るまで、奥の深い京料理の世界だけに、簡単にランクづけしてほしくない」と言う気持ちは、よくわかります。
元町商店街にあります老舗書店「海文堂書店」に、12月1日から4店舗の古書店が集まり、2階店内の一角に古本コーナー「元町・古書波止場」がオープンしています。
以前より、県内の古書店とタイアップして「古本市」を定期的に開催されていましたし、1階にはわずかながらの古書のコーナーがありました。
元町商店街には、気難しい親父さんの「黒木書店」をはじめ、特色ある古書店が多くありました。
今では2軒だけになり、淋しい思いをしておりました。
掘り出し物を探す楽しみが増え、嬉しい限りです。
薬種問屋「鳳仙堂」の<貞吉(のちの利兵衛)>は、丁稚奉公の末、主人<喜兵衛>の一人娘<おみよ>の婿養子となり、地道に商売を続けていましたが、長男<利一郎>は賭場の借金で勘当され、今は<伊佐次>と名を改め代貸として賭場を仕切っています。
ある日偶然に<伊佐次>が見かけた父<利兵衛>は元気がなく、気になりながらも声をかけずに通り過ぎた翌日、父は大川で水死体となり発見されます。
事故か事件かわからないまま、葬儀の当日「鳳仙堂」に10年ぶりに出向いた際、店を継いでいる弟<栄次郎>から「龍氣散」なる薬を「天命堂」から押し付けられていることを知り、父の死の原因ではないかと動き出します。
父と子、兄と弟、面倒を見てくれている貸元の<弥平>のかかわりを通して、己の人生を見つめ直す<伊佐次>の心の機微が、鮮やかに描かれている一冊でした。
著者は、<公安捜査Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ>・<新公安捜査Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ>と公安警察関連のシリーズを重ねてきていますので、この分野の小説として安心して読める作家の一人です。
国交省のエリート官僚<伊藤正志>が射殺される事件が起こり、現場に駆け付けた強行犯三係の<鹿取伸介>は、すでに公安部の幹部が集まっている場面に遭遇します。
この事件の裏側には公安関係の事案が絡んでいるのかと、強行犯三係の同僚<児島要>と捜査に乗り出します。
それぞれに敵対する警察と公安の関係を対比させながら、事件解決に導く地道な捜査が楽しめる一冊でした。
トクサ村では何十年に一人、角の生えた子供が生まれその子は「霧の城」に捧げられる「生贄(ニエ)」として13歳になると、「霧の城」に出向かなければいけません。
角のある子供として生まれた<イコ>は、自分の両親ではなく<村長(むらおさ)>と<継母(ままんか)>に大事に育てられ、神官の到着を待っていましたが、仲のいい<トト>が一緒に「霧の城」に出向こうと待ち伏せして先行して村を飛び出しましたが、北の禁忌の山で石と化した村を見つけ、そこで『光輝の書』を手に入れて持ち帰ります。
この『光輝の書』は、「霧の城」の城主である女王に対して力を発揮する紋様が続荒れており、<イコ>はその図柄の服を身に着けて「霧の城」に向かうのでした。
「霧の城」に出向いた<イコ>は16歳の女王の娘<ヨルダ>を助け出しますが、なぜ「霧の城」は(ニエ)を求めるのか、古からのしきたりの持つ意味はと、「知」と「勇気」をたぎらせながら、<イコ>は「霧の城」の女王と対決していきます。
解説でわかりましたが、本書はテレビゲーム「ICO」のノベライズ版だそうで、なるほどファンタジー小説ながら、戦闘的な場面が多いのに納得がいきました。
放送作家として朝日放送(ABCテレビ)の『探偵ナイトスクープ』のチーフライターを務めている著者ですが、処女作 『永遠の0(ゼロ)』 で小説家としてデビュー、本書『輝く夜』(『聖夜の贈り物』を文庫化に際して改題)が2冊目の作品になります。
本書には5篇の短篇が納められており、どれも「クリスマスイブ」を舞台として書かれています。
それぞれの作品に登場する主人公は女性たちで、一人で寂しく過ごす「クリスマスイブ」に起こる奇跡とも思える出来事により、幸せな経験をする心温まるお話しばかりで、読み手に希望と夢を与える語り口には、ほろっとさせられました。
導入部は、同棲していた男と女が分かれることになり、明日は別々のところに引っ越す前夜、家具もない部屋で最後の時間を過ごす場面から始まります。
読み進むにつれ、1年前にS山地に一緒に出向いた際、現地のツアーガイドが事故死で亡くなっているのは、お互いに相手が殺したのではないかと考えているのがわかりだします。
亡くなったガイドは、二卵性双生児として生まれた男<高橋千浩>、女<高橋千明>が生まれる前に離婚した父親であり、彼は自分の子供がいることは知りませんでした。
<千浩>と<千明>が一年前の事故を振り返りながら交互に語る構成で組み立てられていますが、家族や兄妹などの愛情がいかにもろい綱渡りの上に成り立つのかという、疑心暗鬼の世界が垣間見れる一冊で、心理描写の巧みさに最後まで一気に読み通せました。
主人公である<柴崎令司>は36歳、警視総監直属の筆頭課である総務部企画課の係長をしていましたが、部下の拳銃自殺事件の責任を取らされ、足立区の綾瀬署の警務課の課長代理へと左遷されてしまいます。
出世を望む上昇志向を持ちながら、上司の<中田>課長はお咎めもなく、嵌められた立場で綾瀬署に出向きながらも、本庁に返り咲く手段として<中田>課長の弱みを探り始めますが、所轄で起こる様々な事件と遭遇していきます。
現場捜査に出ることが無かった<柴崎>ですが、警察学校時代の上司<助川>が副署長としており、事務仕事だけでない分野での経験を、積み重ねていかざるを得ませんでした。
本書は連作短篇で7話が納められており、ひとつひとつの事件を通して慎重な行動の<柴崎>の成長がみてとれ、この先の展開が楽しみな構成でした。
雑貨品が好きな24歳の<和子>は、代官山のフリーマーケットで体長15センチほどの「あみぐるみのクマ」を買って帰り、<ミル太>と名付け部屋に飾りますとなんと「クマ」が喋りだしました。
話しを聞いて見ると<ミル太>には、惣菜工場を経営していた夫婦が、5歳の子供を残して借金を苦に心中自殺した事件が気にかかり、再度現場を捜査中に崖から落ちて死亡した59歳の刑事<天野康雄>の魂が乗り移っていました。
現在無職中の<和子>は<天野>の指示のもと、デコボココンビで事件解決に向けて、馴れぬ聞き取り調査を始めていきます。
<ミル太=天野>の声を聞えるのは<和子>だけですので、周囲からは不振がられながらも、ユーモラスな会話の中にも温かみがある二人の軽快な行動が、ほんわかと心をゆさぶられる一冊でした。
<豆腐小僧>は、江戸時代の草双紙や黄表紙、怪談本などに多く登場する妖怪で、本書の主人公として登場してきます。
江戸郊外の廃業した豆腐屋の廃屋に住みついていた<豆腐小僧>ですが、たまたま現れた家をギシギシと軋ませる妖怪<鳴屋>から、自分の妖怪としての存在価値を問われ思い悩んだ<豆腐小僧>は、その理由を求めて旅に出かけます。
道中色々な幽霊や妖怪などと出会いながら、自分の父親は「見越し入道」と呼ばれる妖怪の総大将であり、姉は「ろくろ首」だと知り得ていきます。
全11話の連作で構成されており、すべての文章が講談調のノリで滑稽さと笑いを基本として語られ、知らぬ間に700ページを超す大作を読み切っておりました。
- ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
ログイン
- まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
新規ユーザー登録へ