今年の読書(46)『灯台からの響き』宮本輝(集英社文庫)
7月
25日
板橋の中宿商店街で父の代から続く中華そば店「まきの」を営む62歳の「牧野康平」は、一緒に店を切り盛りしてきた妻「蘭子」を急病で失って長い間休業していました。ある日、分厚い本『神の歴史』の間から妻宛ての古い葉書がはさんであるのを見つけます。30年前の日付が記された葉書には、海辺の地図らしい線画と数行の文章が添えられていました。差出人は大学生の「小坂真砂雄」です。記憶をたどるうちに、当時30歳だった妻が「見知らぬ人から葉書が届いた」と言っていたことを思い出し、「あなたは誰ですか?」という返信をした記憶が甦ります。
なぜ妻は見知らぬ人といった葉書を大事にとっていたのか、そしてなぜ「康平」の蔵書に挟んでおいたのか。妻の知られざる過去を探して、「康平」は海辺の地図らしい線画から〈灯台〉を求めて旅に出ます。中宿商店街で働く「康平」の同級生や自分の子供たちの姿を通じて、人生の尊さ・価値を伝える感動作でした。
葉書の差出人「小坂真砂雄」との関係は判明しますが、なぜ「蘭子」は葉書を『神の歴史』の中に挟んだのかは、未解決のままで、著者の思いは読者に委ねられています。