今年の読書(77)『13・67(上)』陳浩基(文春文庫)
10月
3日
タイトルの『13・67』は、現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)を、時系列ではなく反対に過去に辿る逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリーとなっています。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点でした。
上巻には、1.黑與白之間的真實 (黒と白のあいだの真実 2.囚徒道義 (任侠のジレンマ) 3.最長的一日 The Longest Day (クワンのいちばん長い日)の中編が3篇収録されていますが、第1篇で、主人公の「クワン警視」が肝臓がんのために寝たきりの描写で始まり、おもわぬ筋書きで息を引き取ることになりますので、この先の展開があやぶまれたのですが、それさえも全体構成の伏線となっているのに読み終わってから驚愕しました。
本格ミステリーとしても傑作ですが、雨傘革命(2014年)を経た現在の香港、1967年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分でした。
2015年の台北国際ブックフェア大賞など複数の文学賞を受賞。世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。映画化権は、<ウォン・カーウァイ>が取得しています。著者<陳浩基>は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。本書は島田荘司賞受賞第1作です。
「クワン」の香港警察の「名探偵」と呼ばれた伝説の刑事の情報分析力と捜査手腕に感動する(上巻)でした。