『しあわせのパン』三島有紀子(ポプラ文庫)
12月
6日
沖縄でお誕生日を祝ってもらう旅行をトタキャンされた<香織>は、急きょ旅行先を北海道に変え、「カフェ・マーニ」を訪れ、<水縞>夫婦や、地元の青年<トキオ>や<地獄耳の陽子>たちとの交流を通して徐々に心を癒されていきます。
母親が出ていってあとに残された小学校4年生の<未久>は、仮病で授業を休んだりしていますが、母の想い出の「かぼちゃのポタージュスープ」を<りえ>が作り、<尚>の焼きたてのパンで父親との食事を通して心を開いていきます。
阪神・淡路大震災で一人娘を失くした<阪本史生>は、50年連れ添った癌に侵された妻と「カフェ・マーニ」の近くにある湖で自殺を企てていましたが、パン嫌いの妻が<尚>のパンを食べ、「あしたも食べたい」との一言で未来に目を向けて廃業していた風呂屋を再開させます。
最後の章はなぜ<りえ>と<尚>が、東京から「月浦」に移り住むことになったのかの事情が<尚>の日記形式で綴られ、<りえ>が子供の頃から大事にしていた絵本『月とマーニ』に重ね合わせるように、二人の関係が明らかに語られていきます。
巻末には著者自身の『月とマーニ』の絵本が、<ふじしまたえ>の装画で付けられており、2冊分の価値がある初の小説です。