今年の読書(76)『熱愛』新保裕一(文春文庫)
6月
13日
警察から事情徴収を受ける<悟郎>ですが、なにも答えられない自分に愕然としてしまいます。
<千賀子>は街の金融業者の事務所に出向いて被害に遭いますが、反面ガソリンをまき事務所を放火した容疑もかけられています。その背後には妻殺しの前科のある<伊吹>と前日に婚姻届を出しており、相手の男も事件との関わりがあるのか、入院先の病院にも姿を現しません。
<千賀子>と<悟郎>は幼い頃に両親を亡くし、分かれて親戚筋に引き取られているのですが、<千賀子>は若くして家を飛び出したままで、その後の生活は不明でした。
<悟郎>は、姉<千賀子>のその後の足取りを確かめるべく、一人で関係者を訪ね歩く中で、姉と結婚相手の<伊吹>との関係が分かり始めていきます。
語り手は<悟郎>の目線ですが、本書の主人公は寝たきりの<千賀子>の人生譚ともいえ、タイトルの『最愛』は最後の最後で意味が浮かび上がる仕掛けが秀逸な作品になっています。