ある病院に怪我をした子供を連れて母親が駆け込んだという話を聞いたことがあります。母親は必死になって先生に「どうにか助けてください」と訴えました。先生は「全力を尽くします」と答え、子供と一緒に手術室に入っていったそうです。
このとき母親の気持ちは、不安でいっぱいだったと言います。その理由は、先生の言葉が誠実であるにもかかわらず、「全力を尽くす」という表現が結果を保証しているわけではないからです。医師にとっては当然の姿勢でも、切羽詰まった母親には「助からない可能性もあるのでは」と感じられてしまったのです。
では、先生はどのように答えるべきだったのでしょうか。もし「任せてください。絶対に大丈夫です」と言えば、母親はその瞬間に大きな安心を得ることができます。ただし、結果が思わしくなかったときには「絶対と言ったのに」と責任を問われることもあるでしょう。それでも、その言葉は目の前の人を安心させる力を持っています。
昔「ドクターX」というテレビ番組がありました。そこでは「私は失敗しません」という名台詞が話題になりました。現実の医療現場で同じことを言うのは難しいでしょうが、聞く人に強い安心感を与える表現であることは確かです。
ビジネスの世界でも同じことが言えるのではないでしょうか。「全力を尽くします」と伝えるのは正直で誠実ですが、お客様にとっては不安を残すことがあります。むしろ「ご安心ください。私たちにお任せください」と言い切ることで、相手に信頼を持っていただけるのです。もちろん裏側では本当に全力を尽くす必要があります。しかし、サービスの一部は「安心を与えること」であり、言葉の力が相手の心を動かすのだと私は思います。