本書、<小野寺史宜>の『ミニシアターの六人』は、2021年11月に単行本が刊行され、2024年10月9日に文庫本が発売されています。
銀座のミニシアターで、2年前に亡くなった<末永静男>監督の追悼上映が行われています。21年前に公開されました〈夜三部作〉の2本目の作品『夜、街の隙間』、上映期間は一週間だけ。その最終日前日、午後4時50分の回。天気は雨、観客は6人だけでした。
架空の映画『夜、街の隙間』の場面を取り入れながら、観客の6人の人生を交差させる構成で、他の映画作品名も登場してきます。
この映画館で働いていた「三輪善乃」は、公開当時にチケット売場の窓口にいました。子供の名付け親が、愛人らしき女性と映画を観に来ていた<末永静男>でした。「山下春子」にとっては、大学の同級生と成り行きで観に行った作品です。自主映画を撮っていた「安尾昇治」は、<末永静男>のデビュー作でその才能を目の当たりにし、映画の道を諦めた過去があります。
「沢田英和」は、この作品に元恋人との苦い思い出がありました。20歳の誕生日デートのはずだった「川越小夏」は、一人でスクリーンを眺めています。映画監督を目指す「本木洋央」は、生物学上の父親<末永静男>が撮った作品を観に来ていました。
観客たち一人一人の人生と、『夜、街の隙間』のストーリーを行き来しながら、出会いとすれ違い、別れを繰り返す日々の中にある市井の日常の奇跡を鮮やかに描いています。
銀座という街とミニシアター、そこに集うそれぞれの人生を背負った人々、そして映画への愛を描き切った見事な人生讃歌の一冊でした。読み終えて、
<原田マハ>の『キネマの神様』の隣に並べました。