今年の読書(39)『刑事の約束』薬丸岳(講談社文庫)
4月
29日
本書『刑事の約束』は、『刑事のまなざし』 ・ 『その鏡は嘘をつく』に続く「夏目信人」シリーズの三作目になり、表題作を含む5篇の中短篇が収められています。
主人公「夏目」は、罪を犯した少年たちの心に寄り添い、その更生の手助けになる仕事がしたいと法務技官になり、一人娘が通り魔事件の被害に遭い、植物状態になったことをきっかけに30歳の時に警察官に転職した過去を持っています。6年後、東池袋署の刑事課に配属され新人刑事となった<夏目>の刑事としてのまなざしは被害者の痛みを知る優しさと罪を憎む厳しさを湛えていました。
多くの刑事物の主人公は、血気盛んな破天荒な行動力があるようですが、「夏目」は、はた目にはぼーっとしていて、定時の5時15分には帰宅する、およそ刑事らしからぬ人物として描かれ、事件中心のミステリーとして描かれる背後に、一人娘の不幸を背負った家庭人としての苦悩を抱えながら生きる刑事としての姿を描いているところに魅力が感じられます。
本作で、植物状態に陥っていた14歳の娘「絵美」が目覚めます。前作登場の検事「志藤」も再登場、「前田裕馬」のその後の展開も気になるところで、2020年3月に文庫本として発行されています次作『刑事の怒り』を読まなければいけないようです。