「戦後思想界の巨人」と言わしめた<吉本隆明>は、昨年の3月16日に亡くなっています。
彼ほど多面的で、しかも私たちの生のそれぞれの領域と現象に対して確信をついた批評家は少ないと思います。
タイトルの『真贋』は、正に著者自身の批評の眼の確信であり、あまりにも常識的な「問い」と「答え」にあふれた現状を、真剣に考える上での姿勢がよく表されている言葉です。
繰り返し本書の中で、思春期までの人間形成には母親ないし母親代理の愛情が不可欠であり、出来上がった性格は直らないからこそ、自分を冷静に見つめ考える態度が必要だと説いています。
最後の結びとして、<今は考えなければいけない時代です。考えなければどうしようもないところまで人間がきてしまったということは確かなのです。(略)いま、行き着くところまできたからこそ、人間とは何かということをもっと根源的に考えてみる必要があるのではないかと思うのです>と書かれています。
世の中に流されることなく立ち止り、モノの本質の「真贋」を見抜く目で社会に対応しなければいけない時代の難しさだけは感じ取れましたが、実践はこれまた別問題です。
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