今年の読書(46)『人生の道しるべ』宮本輝・吉本ばなな(集英社文庫)
8月
30日
本書『人生の道しるべ』は、<宮本輝>と<吉本ばなな>の対談集で、2015年10月に刊行されていますが、2024年8月30日付けで文庫本が発売されています。
<宮本輝>が単行本・文庫本共に〈まえがき〉、<吉本ばなな>が単行本・文庫本共に〈あとがき〉を書いており、ふたりの作家が20年ぶりに出会い、そして語った文芸WEBサイト『RENZABURO』での3年の対話をまとめた全7章からの対談で構成されています。
世代も作風も異なるふたりの作家の共通点は、人間の「生」を力強く肯定する作品を書き続けていること。「ぼくは、小説の世界では、心根のきれいな人々を書きたい」(宮本輝)。「読んだ人に『自分と同じだ』と感じてもらえたら、ちょっとした治癒が起きるんじゃないか」(吉本ばなな)。創作の作法、家族、健康、死生観など、小説が問いかける「幸せ」のかたちなど、 知恵と思索が詰まった内容になっています。
<宮本輝>の「僕は若いときに書いたものを否定する気にはならないんです。若くなければ絶対に書けなかった小説もある」という部分が印象に残りました。私の建築設計の分野で、建築家と呼ばれるある高名なひとが、若いころの作品を、「これ先生の設計ですよね」と問われ、「違う」と答えたことがありました。未熟なのは当然でしょうが、その時に全力で取り組んでいた自負があれば、<宮本輝>が言うように肯定すべきだったのだと改めて思いださせてくれました。